研究課題/領域番号 |
16H06306
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
武田 俊一 京都大学, 医学研究科, 教授 (60188191)
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研究分担者 |
笹沼 博之 京都大学, 医学研究科, 准教授 (00531691)
Brown John 京都大学, 医学研究科, 講師 (90583188)
廣田 耕志 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (00342840)
安井 学 国立医薬品食品衛生研究所, 変異遺伝部, 室長 (50435707)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | トキシコロジー / 人体有害物質 / 遺伝毒物学 / 発がん物質 / 変異原 / TK6細胞 / ケモインフォマティクス |
研究実績の概要 |
化審法で規定された変異原性検出試験の感度の改善:化審法で規定された変異原性検出試験(例、小核試験)は、ヒトTK6細胞の野生型のみを使う。野生型は、変異原性化学物質が作ったDNA損傷を迅速かつ正確に修復できるので、検出感度が低いのは当然である。我々は、DNA修復タンパクの欠損TK6細胞(例、XPA/XRCC1 2重欠損TK6細胞)を使った試験を従来の試験法と併用する、新しい変異原性検出試験を開発した。この併用法を小核試験に応用したところ、過酸化水素やアルキル化剤の変異原性を従来の試験法に比べ5-10倍高い感度で検出できた(Environ & Mol Mut 2018)。 性ホルモンの変異原性の発見と作用機序の解析:酵素、Topoisomerase IIβ(TOP2β)はゲノムDNAを2重鎖DNA切断-切断再結合を繰返して、ホルモンによる転写誘導に必須の働きをする。我々は、TOP2βがしばしば切断再結合に失敗しゲノム切断を自然発生させることを見出した(Mol Cell 2016)。この切断の修復には、BRCA1、BRCA2、Atm、TDP2、非相同末端結合が関与していた。これらの分子をTOP2β乳がん細胞(MCF-7)において遺伝子破壊すると、性ホルモンのDNA切断活性が顕在化した。BRCA1のこの新機能を論文発表した(PNAS USA 2018)。 ミトコンドリアDNA(mtDNA)に生じたクロスリンク損傷を修復する経路の発見:紫外線損傷やシスプラチンによるクロスリンク損傷は、ヌクレオチド除去修復(NER)によって除かれる。mtDNAに生じたクロスリンク損傷は修復されないと考えられてきた。我々は、これらの損傷が実際には修復されることと、その修復経路(ミトコンドリアTopoisomerase I (Top1MT)、TDP1、塩基除去修復が関与)を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
3つの理由を以下の3段落で説明する。 我々は、xpa/xrcc1 二重破壊TK6株を創り、化審法で規定された変異原性検出試験、tk試験に応用した。そして菌を使うエイムス試験では陽性を示すが、哺乳類細胞を用いる変異原性検出試験では陰性を示す、従来、変異原性偽陽性と一応説明されてきた化学物質、オーラミンとパラフェニレンジアミンを解析し、これらの変異原性を証明した。本研究の意義は以下の通りである。行政や化学産業のニーズは、AIにより新規化合物の化学構造から変異原性を予測することである。この予測(QSARと呼ばれる)実現には、質の高い学習データが必要である。AIの学習データには本間博士(分担研究者)が収集したエイムス試験の結果(~20,000化合物)が全世界で使われている。二重破壊TK6株を使ったtk試験により「従来、変異原性偽陽性と一応説明されてきた化学物質」が変異原性陽性であることが証明できた。この成果は、全世界で使われるQSARの性能向上に貢献するが故に「当初の計画以上に進展している」と考える。 DNA二重鎖切断は、発がん性が非常に強い。我々は、放射線被曝をしなくても、身体のなかでは大量のDNA二重鎖切断が自然発生することを見つけた。この自然発生の原因は、ホルモン刺激時のTop2βの触媒反応のエラーによる。我々は、家族性乳癌・卵巣癌抑制遺伝子、BRCA1が欠損した乳癌細胞株(G1期)を使い、生理濃度のエストロゲンが高いゲノム二重鎖切断活性を持つことを発見した。生理濃度のグルココルチコイドや薬理濃度のデキサメサゾン、ビスフェノールのそれぞれのゲノム切断活性も証明した。ホルモンの強い変異原性の発見から「当初の計画以上に進展している」と考える。 ミトコンドリアで機能する新たなDNA修復経路を発見した。この発見からも「当初の計画以上に進展している」と考える。
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今後の研究の推進方策 |
化審法で規定された変異原性検出試験の感度の改善:我々は、新たに創ったxpa/xrcc1 二重破壊TK6株を使い変異原性検出の感度を数倍以上向上した。さらに向上させる為に、polη/xpa/xrcc1 三重破壊TK6株を創った。本基盤Sが終了時に代表者が定年を迎えることを考慮し、代表者は、国内の研究者のみならず、有害化学物質の健康影響への研究が発展している中国の研究者(南京大学 Yankai Xia教授)に研究を引継ぐ。 性ホルモンの変異原性の検出:我々は、MCF-7乳がん細胞を使い、女性ホルモンが休止期においてTop2βを介してDNA切断するのを検出できる高感度アッセイを確立した。DNA切断の位置をゲノムワイドに決定する。我々は、このアッセイを使い、生理濃度のグルココルチコイドやビスフェノールAのDNA切断活性を確認した。この知見を論文にまとめる。このアッセイを使い、Dr. XIA Menghang(米国NIH、参考文献はToxicology 2017, PMID: 28478275)は、様々な環境ホルモンの変異原性をハイスループットに検出する。共同研究遂行の為に日本人院生1名をNIHに2018年5月から1年間派遣した(派遣予算は基盤Sとは別)。その院生はポスドクとしてDr. XIA Menghangと研究を継続する。 ミトコンドリアDNA(mtDNA)上の紫外線損傷を修復する経路の発見:我々は、ミトコンドリアのみに存在するトポイソメラーゼ1(Top1MT)がシスプラチン損傷を修復することを発見した。Top1MT欠損細胞は、低濃度シスプラチンに10日間曝露されると、mtDNAのコピー数が5倍低下した。この知見を論文にまとめる。シスプラチンの最も重篤な副作用は腎毒性であり、その原因は不明である。我々は、Top1MT欠損マウス(米国NIHから譲渡)にシスプラチン注射し腎臓障害を解析する。
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