研究課題/領域番号 |
16H06307
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
菅澤 薫 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 教授 (70202124)
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研究分担者 |
岩井 成憲 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (10168544)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 遺伝子 / 蛋白質 / DNA損傷認識 / ヌクレオチド除去修復 / 色素性乾皮症 |
研究実績の概要 |
XPCと相互作用する因子として新たに見出されたヒストンメチル化酵素の局所紫外線照射部位へのリクルートがXPC及びDDB2非依存的に起こること、また転写阻害剤処理によって影響を受けないことが明らかになった。このことから、ヒストンメチル化酵素自体がDNA損傷、もしくは損傷を含むクロマチン領域に対して親和性を持って結合する性質がある可能性が示唆された。一方、局所紫外線照射により損傷部位で実際にヒストンのメチル化修飾が誘導されること、上記のヒストンメチル化酵素の発現を抑制するとこのメチル化の誘導も見られなくなることがわかった。XPCがある種のメチル化ヒストンに対して特異的に結合することを示す以前の結果と合わせ、DNA損傷に伴ってその周辺で誘導されるヒストンのメチル化がXPCのリクルートとその後の損傷認識を促進している可能性が強く示唆された。 昨年度までに確立した三光子吸収と共焦点レーザー走査型蛍光顕微鏡を組み合わせたライブイメージング系を用いて、XPCの局所紫外線照射部位への集積に影響を与えるsiRNAの探索を行った。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤で細胞を処理するとXPCの損傷部位への集積が有意に遅延することは以前からわかっていたが、特定のHDACがそれ自身、局所紫外線照射部位に集積し、その発現抑制がXPCの集積を遅延させることを見出した。既にヒストンがアセチル化されているクロマチン領域では、上記のメチル化を誘導するための前提としてまず脱アセチル化が必要なのではないかと考えている。さらに興味深いことに、siRNAのスクリーニングから既知のクロマチンリモデリング複合体の構成成分に加え、RNA干渉関連因子の発現抑制がXPCの損傷部位への集積を有意に遅延させることが見出された。XPCやDDB2に依存せずに損傷部位のクロマチン構造を変換する分子機構を考える上で重要な意味を持つ可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究で、XPCによるDNA損傷認識の過程をヒストンのアセチル化修飾が負に制御する一方、逆にメチル化修飾が促進的な機能を担っている可能性が強く示唆された。これは遺伝子発現の制御で一般的に考えられているヒストン修飾の機能とは一見異なっており、DNA修復において特異的に機能する新たなクロマチン構造動態の役割を示唆するものである。DNA修復に関連した既存のアッセイ系に加え、XPC相互作用因子のプロテオミクス解析、三光子吸収による局所紫外線刺激に伴うXPCの動態解析などのアプローチを統合的に駆使することにより、実際に損傷部位にリクルートされるヒストン修飾酵素の同定、損傷部位におけるヒストン修飾の誘導等に関して一貫した知見が蓄積しており、複数のアプローチの有機的な連携という当初期待した通りの効果が得られている。 多光子吸収を用いたライブイメージングによる新規因子の探索に関しては、昨年度までに系を確立し、本格的なスクリーニングを進めている。既に得られた候補因子の中には、クロマチンリモデリング複合体の構成成分に加え、RNA干渉やユビキチン-プロテアソーム系に関連する因子など、当初予想しなかった興味深いものが多数含まれている。上記のヒストン修飾に加え、これらの因子のDNA損傷認識における役割を詳細に調べることで、ヌクレオチド除去修復の損傷認識を制御する新たな分子機構の解明という研究目標を達成できる可能性は高く、全体として研究計画はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
既知のDNA損傷認識因子の相互作用因子の同定及びイメージングスクリーニングを引き続き進める一方で、残された研究期間を考慮し、本研究で既に取得された因子の機能や分子機構の解明に軸足を移して研究を推進する。損傷部位にリクルートされることが示されたヒストン修飾酵素(メチル化酵素、脱アセチル化酵素)に関しては、様々な変異体を作製して損傷部位へのリクルートに必要なドメインを明らかにするとともに、それぞれの酵素活性についてXPCの損傷部位へのリクルートやその後の修復反応における必要性を明らかにする。特に染色体の特定の部位に任意の因子をテザリングできる細胞系を利用し、これらの酵素によって誘導されるヒストン修飾の変化がXPCのリクルートに十分かどうかを検証する。 イメージングスクリーニングにより見出されたクロマチンリモデリング因子やRNA干渉関連因子については、局所紫外線照射に伴う細胞内局在、細胞のDNA修復活性に対する発現抑制及び過剰発現の影響などを調べる。クロマチンリモデリング複合体の中にはヒストン修飾酵素をサブユニットとして含むものも多いことから、上記のヒストン修飾酵素との関連に着目した解析を予定している。またRNA干渉関連因子については、DNA損傷に伴って細胞内におけるRNAプロセシングの大規模な変化が誘起されるという最近の知見もふまえ、紫外線照射に伴って特異的に変動する低分子RNAの解析を行うことを検討している。以上の解析で得られた知見をクロマチン構造を取った損傷DNA基質を用いた無細胞DNA修復系で検証し、さらに詳細な分子機構の理解を目指す。
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