研究課題/領域番号 |
16H06308
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高野 裕久 京都大学, 工学研究科, 教授 (60281698)
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研究分担者 |
小池 英子 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, 室長 (60353538)
柳澤 利枝 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, 主任研究員 (70391167)
Tin・Tin Win・Shwe 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, 主任研究員 (00391128)
井上 健一郎 静岡県立大学, 看護学部, 教授 (20373219)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | アレルギー・ぜんそく / 環境 / 衛生 / 社会医学 / 免疫学 |
研究実績の概要 |
環境汚染物質によるアレルギー悪化メカニズムを根源的、本質的に解明すること、および、アレルギー悪化影響評価システムを構築することを目指し、in vivo、 ex vivo、in vitroの各手法を用いた系統的研究計画に着手した。 in vivo、 ex vivoの研究に関しては、これまでの検討から、経気道曝露によりアレルギー悪化作用が確認されているビスフェノールA (BPA) を対象とした。本年度は、BPAの経口曝露が、アレルギー性喘息モデルに与える影響を評価し、悪化メカニズムを解析した。その結果、BPAが、食事を介した経口的な曝露によっても、アレルギー性喘息を悪化させることを確認することができた。また、アレルギー性気道炎症の亢進に並行し、縦隔リンパ節(所属リンパ節)におけるリンパ球等の免疫担当細胞の活性化が惹起されていることも見出した。さらに、上流の骨髄レベルの変化について検討した結果、BPA曝露は、アレルゲン投与により誘導された骨髄細胞数の減少と骨髄液中のSDF-1αレベルの低下を促進していた。このことは、免疫担当細胞の炎症局所への動員に寄与する骨髄から抹消への放出が、BPA曝露により促進された可能性を示すものと考えられる。その後、骨髄細胞のフェノタイプや骨髄液中の他のサイトカインレベル、また、BPA曝露による炎症に関連する神経免疫パラメータについても解析を進めた。 in vitroの研究に関しては、吸入環境汚染物質のアレルゲン初期応答への修飾影響を検討すべく、肺胞上皮細胞を用いてダニ抗原と多種類の多環芳香族化合物を併用曝露し、解析を進めた。その結果、フェナレノンやベンゾピレノンなどのケトン類がアレルギー関連サイトカインのタンパク産生を(抗原単独曝露と比べ)有意に減少させる一方、ジベンゾ[a,l]ピレン、無水ナフタル酸等が増強させることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では、in vivo、 ex vivo、in vitroの各手法を用いた系統的研究により、環境汚染物質によるアレルギー悪化メカニズムを根源的、本質的に解明することを目指している。それゆえ、動物モデルを用いた影響評価とメカニズム解明に係る研究の推進が不可欠である。計画を効率的に推進するため、初年度に、京都大学において新たな動物実験施設を整備する予定であった。しかし、動物実験施設に予定していた実験室の空調設備と導入予定であった動物飼育装置アイソフードラックに不適合があることが判明したため、当該新規動物実験施設における動物モデルを用いた影響評価が、当初の計画通りには開始できなくなった。この事態に対処するため、旧来用いていた動物実験施設を、本研究計画の効率的推進に対処できるよう、改修した。このため、京都大学における動物モデルを用いた影響評価と機構解明に関する研究の遂行に、一時期、若干の遅れが生じたが、その後、順調に挽回し、研究計画は問題なく進展している。 一方、国立環境研究所におけるin vivo、 ex vivoの各手法を用いた系統的研究、および、静岡県立大学におけるin vitroの手法を用いた研究に関しては、計画通りに、研究が進んだ。また、静岡県立大学では、動物モデルを用いた影響評価とメカニズム解明に係る研究実施に向けた準備も着々と進んでいる。 以上、進捗に若干の支障はあったものの、後述の研究推進方策により、大きな問題はなく、当初計画は推進できたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上述の理由による京都大学における研究の若干の遅れを取り戻し、今後の研究を効率的に進めるため、30年度に購入予定であった高効率のセルソーター機能付きフローサイトメトリーを、29年度よりリースで導入することとした。これにより、効率的に環境汚染物質によるアレルギー悪化メカニズムを根源的、本質的に解明することを目指したい。 次年度は、特に、樹脂原料と大気汚染物質を対象とした研究に重点を置き、骨髄における変化に焦点を当て、計画を進める予定とする。また、アトピー性皮膚炎モデルに関しては、解析しうる細胞数が限られることも想定される。この際は、多数の細胞採取が容易なアレルギー性喘息モデルの研究を次年度以降も先行させ、解析対象細胞・分子を絞り、アトピー性皮膚炎モデルに適用する予定とする。一方、基礎免疫学の最新知見を常に取り入れ、解析対象細胞・分子、及び、その優先度の再検討を常時行う予定とする。これらにより、研究計画の改訂を図り、効率的に計画を推進することを企図する。 以上により、環境汚染物質によるアレルギー悪化メカニズムを根源的、本質的に解明する。特に、in vivo、 ex vivo、in vitroの各手法を用いた系統的研究により、アレルギー悪化の鍵を握る細胞及び細胞間相互作用と、それらで重要な役割を演ずる細胞内分子及び細胞表面分子、液性因子を同定し、創薬の標的とすべき分子を明確にする。これにより、アレルギーに対する医学的対策に結び付けることをめざす。一方、同定した細胞と分子を用いた簡易in vitro影響評価系によりスクリーニングした物質について、in vivoの疾患モデルにおいてアレルギー悪化作用の存在を確認してゆく「アレルギー悪化影響評価システム」を構築する。これにより、環境中のアレルギー悪化要因や物質を同定し、その削減をめざす環境学的対策を提案することをめざす。
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