研究課題
本研究では,科学的知見がきわめて少ない浅海底において最先端のマルチビーム測深を用いて作成する精密海底地形図を基に,従来の地形学にない「浅海底地形学」を開拓し推し進める。さらに,作成した精密海底地形図を基に,自然科学諸分野から人文・社会科学に至る学際研究をすすめ,総合的環境理解へとつなげることを目指している。28年度は以下を実施した。1.機材の整備:現有のマルチビーム測深機に最新の慣性GPS ジャイロを装備し,位置精度を向上させた。また,現地調査の精度向上のため GPS/GLONASS測位システムを導入した。2.マルチビーム測深調査:奄美大島中部東シナ海側の大和村の2海域にて測深調査を行った。大和村は,分担者の渡久地氏が漁民の漁場認識に関する研究を積み重ねてきた地域である。測深調査には国内の分担者・協力者の他,シドニー大からDuce氏が参加した。大和村では分担者の長谷川均氏が率いる航空写真測量や,藤田喜久氏が率いる海底の生物調査も共同で実施した。3.マルチビーム測深エリアでの学際的フィールド研究: 1)久米島:久米島東部の堡礁型サンゴ礁における測深域にて,シドニー大Vila Concejo氏とDuce氏を加えた国際共同調査を実施した。ここでは主に波高計・流速計を用いたサンゴ礁外縁および堡礁礁湖内の流向・流速の計測と,堆積物の採取を実施した。あわせて,分担者の後藤和久氏が中心となってコンピューターシミュレーションを実施し,サンゴ礁の地形の違いが,礁湖への波浪の進入や流れにどのように影響するかについての予察的結果を得た。 2)石垣島名蔵湾での地層探査:この海域は我々の研究グループが高詳細海底地形図を基に地形・地質・堆積物・水質・サンゴ群集の調査を重ねている海域である。28年度は,ストリーマーケーブルを用いたマルチチャンネル音波探査によって海底下の地層断面の探査を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究で進めるワイドバンドマルチビーム測深機を用いた浅海底地形の三次元マッピングが,学会等で注目される成果を上げている。6月にハワイで開催された第13回国際サンゴ礁学会にてプロジェクトの紹介ならびに久米島東部の堡礁型サンゴ礁について高精密地形を基にした地形学研究を発信した。また,西オーストラリアで開催された第6回国際水中考古学会にて,マルチビーム測深を用いた水中考古学研究の成果を発表した。いずれも,他に例のない最先端の研究として注目された。28年度は,機材の整備を速やかに進めることができたこと,研究分担者による測深対象海域での現地調整がきわめて円滑に行われたことから,当初29年度に予定していた奄美大島沿岸域でのマルチビーム測深調査を前倒しで実施することができた。また,久米島での総合調査も成功させることができた。特に波浪・流速観測では,近隣で発生した台風13号の通過に伴って,これまでサンゴ礁の礁縁部で観測された中では世界で最大となる波高と,それが礁湖内で減衰することが観測された。同海域のコンピューターシミュレーションも確実に進んでおり,サンゴ礁の防災効果の推定に大きく前進した。奄美大島の測深調査および久米島の総合調査に関しては,オーストラリア・シドニー大学との国際共同研究として進めることができ,本研究を国際的に展開していくスタートを切ることができた。年度後半には石垣島名蔵湾では詳細かつ深部まで至る地層探査を成功させることができ,今後の浅海域地形学・地質学の構築にむけて大きく前進した。さらに28年12月には,本研究課題の遂行を後押しすることを目的として,九州大学に先導的学術研究拠点「浅海底フロンティア研究センター」を設立した。研究課題の実行に向けた看板となることが期待される。
ひきつづき,精密海底地形図を基に「浅海底地形学」を開拓する研究,自然科学諸分野から人文・社会科学に至る学際研究をすすめ,総合的環境理解へとつなげる研究を展開する予定である。29年度~30年度は引き続き琉球列島の新たな海域でマルチビーム測深調査を進めるとともに,既に測深調査を実施した海域における分野横断的研究を進める。ボーリングコアや地層探査の解析・堆積物調査などの地質学的調査,波浪観測・シミュレーションなどの防災分野の研究,サンゴや甲殻類などの生物調査,漁場知識等の文化地理学調査,水中考古学調査を推進し,これらを総合して海域の環境理解へつなげる予定である。また,本州沿岸など温帯域の浅海底のマルチビーム探査および学際研究も開始したいと考えている。また,29年度には28年度に実施した久米島での国際共同研究の成果発表および今後の研究展開等を話し合うため,シドニー大学でシンポジウムとワークショップを開催する予定である。この活動は30年度以降も続ける予定であり,本研究課題を国際的に展開する軸にしたいと考えている。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うちオープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 4件、 査読あり 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件) 図書 (1件) 備考 (1件)
科学
巻: 84 ページ: 1213-1215
沖縄地理
巻: 62 ページ: 52-57
Fauna Ryukyuana
巻: 33 ページ: 19-20
巻: 34 ページ: 1-6
http://www.scs.kyushu-u.ac.jp/kan/