研究課題/領域番号 |
16H06311
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
坪木 和久 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (90222140)
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研究分担者 |
山田 広幸 琉球大学, 理学部, 准教授 (30421879)
高橋 暢宏 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (60425767)
松見 豊 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 研究員 (30209605)
中山 智喜 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 講師 (40377784)
篠田 太郎 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (50335022)
伊藤 耕介 琉球大学, 理学部, 准教授 (10634123)
大東 忠保 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 特任助教 (80464155)
山口 宗彦 気象庁気象研究所, 台風研究部, 主任研究官 (80595405)
森 浩一 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (90375121)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 台風 / 航空機観測 / ドロップゾンデ / エアロゾル / 雲解像モデル / 台風強度 / 波しぶき / ドローン |
研究実績の概要 |
1.台風観測のための試験飛行およびドロップゾンデのテスト:航空機からのドロップゾンデの投下観測試験を輪島市北の日本海上で実施し、さらに輪島市役所の協力を得て市庁舎からの気球ゾンデとの同時観測により、ドロップゾンデの検証を行った。これによりドロップゾンデが精度よく測定していることを示した。 2.スーパー台風の航空機観測に成功:2017年10月中旬にこの年の最強台風のスーパー台風Lan(台風第21号)が発生し、その航空機観測を台湾の中央気象局と共同観測を行った。10月21日に沖縄本島の南東を北上する第21号の観測を、北緯23度付近で実施した。高度13.8kmで台風の西側から眼の壁雲を通過し眼内部に入る貫入観測を行った。眼の中心と眼の壁雲でドロップゾンデを投下し、台風の眼の暖気核構造と中心気圧の直接観測に成功した。さらに眼の周辺を飛行しドロップゾンデ観測を実施した。翌日10月22日、北緯28度で再度眼の貫入観測を実施し、台風の中心気圧の直接観測に成功した。2日間で26個のドロップゾンデを投下し、射出はすべて成功し、高いデータ取得率で観測が成功した。 3.ドローン観測:前年度の沖縄本島および多良間島でのマルチコプター観測の解析を行うと共に、マルチコプター型無人航空機の風洞実験ならびに飛行実験を行い、風による飛行性能への影響を明らかにした。 4.エアロゾル観測:2017年10-11月に名古屋大学で光学式粒子計数器を用いたエアロゾル粒径分布の測定を行った。エアロゾルの重量濃度に関して、名古屋では主に1ミクロン以下の微小粒子がエアロゾルの重量濃度に寄与しているが、沖縄では1ミクロン以上の粗大粒子の寄与が大きいことがわかった。名古屋での観測では、2017年の台風21号および22号が観測地点の東側を通過した際のデータが得られ、台風通過前後に微小粒子が減少し、粗大粒子の割合が増加することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2017年10月のスーパー台風の観測は、台風の眼に貫入してドロップゾンデ観測を行った航空機観測としては国内ではじめてである。これは当初計画にはない観測で、まさに台風強度の直接観測を実施したもので、これは当初計画以上に進展したものといえる。台風やハリケーンの航空機観測を行っているのは、米国と台湾があるが、台湾は台風周辺の飛行観測を行うだけで、眼には入らないことになっている。米国は米軍のハリケーンハンターが特殊な航空機で3kmほどの低高度での貫入観測を行っているが、中程度の強度以上のハリケーンについては眼に入らない規則となっている。2017年のスーパー台風Lanのような強い台風への貫入観測は世界的にもほとんど行われていない観測で、台風の眼内部で直接観測を行い、中心気圧と暖気核の極めて貴重なデータを得ることができた。さらに13.8kmの高度で台風の眼に貫入することで、特殊な軍用機ではなく民間航空機でも安全に観測することができることを示したことは、今後の台風の航空機観測に新しい道を開いたことになり、重要な意義を持つ観測である。 この航空機観測のデータを用いて、研究計画書にあるように、ドロップゾンデデータを高解像度の数値予報モデルに同化することを行った。その結果、台風の眼内部および周辺におけるドロップゾンデ観測のデータを用いることで、台風の進路だけでなく、強度予測も改善されることを示した。これは本研究課題の中心課題の達成の一つといえる。 これらの他に、強風環境下でのドローンの安定飛行という本研究課題の挑戦的部分についても、風洞を用いた実験を行うなどの進展があった。また、エアロゾル観測についても,台風通過時の観測を行うなど、計画に沿った研究が進められている。
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今後の研究の推進方策 |
2017年の観測は、日本の航空機を用いた初めての台風観測であったので、日本の航空情報領域を出て観測を行うことができなかった。このため北緯21度以北に入ってきた台風を観測したのであるが、より低緯度における進路や強度の予測の不確実性の高い台風について観測を実施し、航空機観測がその強度推定と予測の改善に寄与することを示したい。そこで2018年度には、北海道大学の高橋幸弘教授のSATREPSフィリピンプロジェクトと共同観測を実施し、フィリピン付近の程度における観測を実施する。この観測においても台湾の中央気象台と共同観測を実施し、データを交換することで、より多くのデータを利用できるようにする。 台風の航空機観測という貴重なデータは、研究だけでなく実際の台風予測にも利用されることが強く望まれる。そこでドロップゾンデ観測データを台風予測を行っている世界中の気象予報機関にリアルタイムで送信することを実施する。そのために観測直後に航空機からGTSとよばれるデータ交換用通信網にデータを送信することができるシステムを構築し、実際に航空機からデータ送信を行う。 沖縄本島に設置した名古屋大学宇宙地球環境研究所のXバンド偏波レーダおよびNICTのCバンド偏波レーダを用いて、沖縄本島付近を通過する台風のレーダ観測を行い、台風の内部構造を調べるとともに、レーダから強度を推定することを試みる。 ドローン観測については、名古屋大学の風洞に突風を発生させる装置を設置し、ドローンの突風に対する応答の解析を行い、突風に対してもアンテナ飛行が可能なような制御系を設計する。 エアロゾルについては、沖縄本島に観測装置を設置し、長期間の観測を行うことで、台風が接近通過するときのエアロゾル特性を明らかにする。
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備考 |
本研究課題は国際共同研究としても実施するため、”T-PARCII(Tropical cyclones-Pacific Asian Research Campaign for Improvement of Intensity estimations/forecasts) ”というコード名をつけてある。また、日本以外に、米国、台湾、香港、韓国の研究者の参加するアドバイザリーボードをもうけている。
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