研究課題
先進医療の進展には、近年注目されているバイオ医薬品(抗体、サイトカイン、核酸、エクソソームなど)を安定に送達、徐放しえる新規バイオマテリアルの開発が不可欠となっている。本年度は、CHPナノゲルを用いて人工がん抗原ペプチドを腫瘍関連マクロファージに選択的に送達し、その抗原提示機能を人為的に誘発したところ、がん内部が炎症性環境になり、免疫療法に抵抗性であったがんを感受性に変換できることを明らかとした(三重大学との共同研究)。連携研究者の松田らとの共同研究により、ナノゲル架橋ポーラスゲルに繊維芽細胞を封入し、ダイレクト・リプログラミングにより比較的大量に誘導骨芽細胞を誘導することに成功し、これまで治療が難しかった中規模から大規模な顎骨骨欠損骨再生治療を可能にする新規な手法を開発した。エクソソームの人為的機能制御法として、エクソソーム表層を機能性ナノゲルで修飾するハイブリッドエクソソームを開発した。エクソソームとCHPおよびCHPにアミノ基を修飾したアミノ基修飾CHPを混合するだけでエクソソーム表面にナノゲルを複合化し得ることや、ハイブリッド化することで細胞への取り込みが促進されることを明らかとした。種々の糖鎖ポリマーの設計を検討している中で、ポリプロピレンオキシド末端にオリゴ糖を有する両親媒性糖鎖ポリマーが、水中でサイズの揃ったポリマーベシクルを形成することを見出した。このベシクルは、低分子透過性を有し、酵素などの高分子は安定に保持した。酵素封入ベシクルは、外部から基質を内部の酵素に供給でき、酵素反応生成物を外部に放出できる機能を持つことが分かり、血中投与により生体内のがん組織周囲に集まり、その場でプロドラッグを抗がん剤へと変換し、優れた抗腫瘍効果を示すDDSナノファクトリーとして機能しえることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
新規機能性糖鎖ナノゲルの設計とDDS機能では、本研究で取り組み始めた分岐多糖を基盤として自己組織化ナノゲルが従来の直鎖状多糖からなるナノゲルとは異なる興味ある特性を有することを見出している。この研究展開を行っている過程で、オリゴ糖鎖ポリマーが分子透過性ベシクルを形成することを偶然に見出し、新規なDDSナノファクトリーとしての機能展開を行い、新しい研究分野を開きつつある。また、ナノゲル架橋ポーラスゲルと細胞とのハイブリッドを構築し、ダイレクトリプログラミン技術との融合による従来にない骨再生細胞治療での有用性を示した。さらに、エクソソームとナノゲルのハイブリッド手法を確立し、今後のエクソソームのバイオマテリアル応用への新しい可能性を示しつつある。ナノゲルDDSによるがん免疫療法においては、腫瘍関連マクロファージの機能制御を行える世界初の技術を開発し、免疫療法抵抗性のがんの治療成績が向上しえることを動物実験で明らかにし、その有用性を示している。今後、他の手法、例えば、チェックポイント抗体療法との併用を行うことでさらなる有用性を示すことが可能であると思われる。
ナノゲル架橋ポーラスゲルによる再生医療応用を進めており、骨再生の人工細胞外マトリクスとしての有用性が明らかになっている。一方で、ゲルの生分解性制御も課題の一つにあげられている。そこで、ナノゲルとハイブリッド架橋を行うポリエチレングリコールとの架橋構造に注目して、その化学構造を変えることで、生分解性挙動の制御を図っている。がん免疫治療における抗原デリバリーシステム開発において、抗原タンパク質や抗原ペプチドのデリバリーに関して、従来のCHPナノゲルの有用性は明らかになってきた。さらに優れたシステムを開発するためには、抗原提示細胞へのデリバリーの効率を上げる必要がある。本研究で新たに開発した分岐性多糖ナノゲルがその解決法の糸口になることが明らかになりつつあるので、今後も検討を進める。もう一つの課題は、アジュバントと抗原との共デリバリーに関するものである。アジュバントと抗原が、一緒に抗原提示細胞に取り込まれることが、特にがん免疫治療で重要なキラーT細胞の誘導に重要であることが明らかになってきた。アジュバントは、核酸分子がその誘導体が多く、そのナノキャリとしてのナノゲル設計も課題である。本研究においても、核酸デリバリーシステムの開発をすでに行っており、それらを組み入れることで、この課題に挑戦していく予定である。
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Biomaterials Science
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