研究課題
自閉症は社会性の障害に代表される発達障害である。遺伝的寄与が高いが環境要因の関与も否定できない多因子複合性の疾患で、その病態解明は未だ断片的である。本研究では、細胞・シナプス(自閉症細胞モデルの開発)、回路・行動(社会性行動異常の神経回路の解明)、さらには環境要因(脳腸連関による脳発達障害)レベルで、それぞれの最先端技術を導入した方法論を取り入れ多面的に解析するとともに、それらの結果を連関、統合する事により、複雑な自閉症の病態解明に迫る。自閉症の生物学的研究として、本成果は新規診断・治療法開発への基盤は勿論、正常の社会脳発達の理解に貢献する事が期待される。UBE3Aは発達障害であるアンジェルマン症候群をきたす原因遺伝子として知られているが、これまでにユビキチンリガーゼとしてシナプス関連タンパクのユビキチン化が議論されてきた。UBE3Aは核内にも存在する分子であることを明らかにした上で、核内受容体の転写制御分子としての機能を明らかにする目的で、UBE3A欠損アンジェルマンモデルマウスのトランスクリプトーム解析を行った。バイオインフォマティクス解析の結果、アンジェルマンモデルマウスでは抗ウイルス免疫に関わるIRFの下流遺伝子が同定された。UBE3Aが脳内免疫の転写制御因子として機能していることが示唆された。また、自閉症細胞モデル、社会性神経回路、自閉症環境要因関わる成果は、それぞれ、コピー数多型網羅的ES細胞ラブラリーの構築、大脳皮質ネットワーク動態解析、自閉症モデルマウスの腸内フローラ解析として、論文準備中である。
2: おおむね順調に進展している
CRISPR/Cas9系を用いた「次世代」染色体工学的手法を用いて、ヒトコピー数多型(CNV, copy number variation)に相当するマウスCNVを有するマウスES(embryonic stem,多能性幹)細胞モデルの構築を完成した。また、ES細胞から神経細胞への分化プロトコールを確立し、現在トランスクリプトーム解析、形態学的解析、生理学的解析を行っている。細胞モデルの表現解析として、代表的なCNV11種類に関して、トランスクリプトーム解析、形態学的解析、生理学的解析(Ca反応、電気生理学的解析)を行った。また自閉症コピー数多型(CNV)データベースを構築した。バーチャルリアリティー(VR)システムを用いた社会性行動の解析として、マウス活動時における大脳皮質でのCaシグナルのマクロイメージングを行った。得られたネットワークから行動予測が可能かどうかを数理学的に考察した。さらに、野生型マウスのみならず、自閉症モデルマウス(Dup15q)においてもその行動と大脳皮質ネットワークとの関連を検討した。微小顕微鏡を用いた社会性行動中の神経活動計測では、前頭前皮質及びその近傍の脳部位からCaシグナルを計測することにより、「社会性細胞」を同定した。
自閉症コピー数多型(CNV)ライブラリーのin vitroスクリーニング:様々なラインを利用して、神経細胞に分化した後、様々な形態的パラメータ(樹状突起分枝数、同長さ、細胞体サイズ等)、Caシグナル他、ドラッグスクリーニングのための指標を探索する。ヒトCNV細胞モデルの構築:マウスCNVライブラリーの中で、代表的なラインに関して、ヒES細胞を用いて次世代染色体工学を施すことにより、ヒトCNV細胞モデルを構築する。バーチャルリアリティー(VR)システムを用いた社会性行動の解析:機械学習を利用して、ネットワーク解析から行動の予測が可能になるかを検討する。in vivo 自由行動下での社会行動中の神経活動計測:オプトジェネティクスを利用して、本「社会性細胞」の刺激により、社会性行動に変動が見られるかどうかを検証する。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 3件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 6件)
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