研究課題
全ての脊椎動物は、より大きい縄張りや、よりよい生殖パートナー等を巡って、同種同士で闘う。このような社会的闘争は、相手の抹殺によってではなく、戦いの当事者のどちらかが降参して、当事者同士がお互いの優劣関係を受け入れたときに終息する。これまで、このような社会的闘争の終息がどのように制御されているのかは、全く分かっていなかった。我々はこれまでの研究から、脳の手綱核から脚間核へと繋がる隣接し合った二つの神経回路が、動物種を越えてこの過程に深く関わっているという手掛りを得た。本研究では、この発見を発展させて、脊椎動物の社会的闘争での優劣決定の仕組みを明らかにすることを目指し、研究を進めてきた。平成30年度までの研究から、ゼブラフィッシュでは、背側手綱核の内側亜核から腹側脚間核への神経結合が、脚間核の神経細胞での、α7ニコチン型アセチルコリン受容体の活性化に依存するカルシウム透過性AMPA型グルタミン酸受容体の発現増加によることが明らかになった。また、飢餓状態に置かれたゼブラフィッシュは、闘争において敗北しないことが明らかになった。さらに、食欲の調整に深く関わるオレキシン神経細胞からの入力によって、脚間核神経細胞に表出されるグルタミン酸受容体が修飾されることが明らかになった。マウスでは、ウィルスベクターを使った神経回路トレーシングによって、脚間核の各部位と背側逢線核と正中逢線核とのつながりを明らかにした。とりわけ、腹側内側手綱核と繋がる脚間核中心部の神経細胞が、正中逢線核のセロトニン神経細胞の活動を抑制することを明らかにした。従って、社会的闘争の敗者では、腹側内側手綱核から脚間核神経細への回路が活性化され、正中逢線核のセロトニン神経細胞の活動が抑制されると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
ゼブラフィッシュに関しては、敗者の回路に関して、シナプス増強の仕組みを分子レベルで明らかにできた。また、飢餓状態の魚が負けなくなる仕組みを、分子レベルで明らかにしつつある。マウスでは、手綱核から脚間核をげて正中縫線核に至る回路が敗者の回路の実態であることを、解剖、生理、回路、行動の実験から明らかにした。これらの達成実績によって、上記の判断を下した。
ゼブラフィッシュとマウスで、手綱核ー脚間核経路における敗者の回路におけるアセチルコリンの役割を明らかにする論文を発表する。飢餓状態で、勝者の回路が優位となる仕組みにおいて、オレキシンの作用機構を明らかにする。ゼブラフィッシュとマウスで、勝者で、勝者の回路が優位となる仕組みを明らかにする。勝者と敗者の回路同士の競合の仕組みを明らかにする。
手綱核-脚間核神経回路が争いの優劣を決めるメカニズムに関与していることを解説
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 8件、 招待講演 11件) 備考 (1件)
Nat Commun.
巻: 9 ページ: 3804
10.1038/s41467-018-06225-x.
Neuroreport.
巻: 29 ページ: 1349-1354
doi: 10.1097/WNR.0000000000001113.
Biochem Biophys Res Commun.
巻: 501 ページ: 786-790
10.1016/j.bbrc.
Sci Rep.
巻: 8 ページ: 6048
10.1038/s41598-018-23906-1.
http://www.riken.jp/pr/press/2016/20160401_1/