研究課題/領域番号 |
16H06319
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
馬塚 れい子 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, チームリーダー (00392126)
|
研究分担者 |
窪薗 晴夫 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (80153328)
酒井 弘 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (50274030)
川原 繁人 慶應義塾大学, 言語文化研究所(三田), 准教授 (80718792)
宇都木 昭 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 准教授 (60548999)
久能 三枝子 (高田三枝子) 愛知学院大学, 文学部, 准教授 (90468398)
|
研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
|
キーワード | 乳児音声発達 / 破裂音 / 単語レベルの韻律 / 日本語 / 韓国語 / タイ語 / 広東語 / 知覚狭窄仮説 |
研究実績の概要 |
乳児による言語の音韻体系の獲得はその後の言語発達の基礎となる重要な過程で、その起源に迫ることは言語獲得のメカニズムの解明そのものにつながる。現在の通説では、乳児期の音韻発達は、Perceptual Narrowing (知覚狭窄)と呼ばれる発達変化を通して達成されるとされる。しかし、この仮説は欧米言語を対象にした少数の研究のみに基づいており、本当に普遍的な発達過程であるのか、音素以外の音韻発達にも妥当な仮説なのか不明である。本研究ではタイ語、韓国語、広東語、日本語を学ぶ乳児が破裂音や単語レベルの韻律を学ぶ過程を実験的に検証し、乳児が音韻体系を獲得する過程を解明することを目指している。 タイ語、韓国語、広東語、日本語は破裂音や単語レベルの韻律特性が対照的で、これらの言語を比較的に研究することは、従来欧米言語に偏重していた乳児音声発達研究に貴重な貢献できる可能性がある。しかし、日本以外では実験的に乳児の音声知覚を研究する環境を持つ研究室が確立しておらず、言語間の比較研究をすることは難しかった。本研究の目標の一つははタイ、韓国、香港の各国の若手の研究者で乳児音声発達を実験的に研究したいという意欲を持つ共同研究者を特定して、それぞれの研究室の実験設備や大学院生の訓練などの初期サポートを提供することで各国で乳児音声知覚実験を推進する環境を作り出すことにある。 2016年度は、各国の共同研究者が理研に滞在して実験の実施方法を習得したり理研の研究者が各国の研究室を訪問して実験設備や実験方法などが正しく機能しているかの確認等を行った。 4ヶ国語の比較研究の環境が整い次第、各言語を学ぶ乳児が破裂音、単語レベルの韻律をどのように獲得していくのかを実験的に比較検証する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2016年度は、4カ国で同じ条件で実験が実施できる環境を整備することを第一の目標として研究を進めた。7月には国内の分担者で第一回共同研究者会議を実施し研究の内容や共同研究の進め方について議論した。8月には国際共同研究者も含めた第2回の共同研究者会議を行い、具体的に実験の計画や刺激の選択等について議論を進めた。 併行して7月、8月には香港大学の大学院生、タマサート大の共同研究者及び大学院生が理研に滞在し、共同研究で用いる予定の視覚的馴化脱馴化法を用いて乳児を対象として実験を行えるよう研修を実施した。韓国中央大はすでに同手法で実験を実施する環境が整備されている。2017年2月には理研のスタッフがタマサート大、香港大を訪問して実験設備や実験手法などが間違いなく動いているかの確認を行った。 また、香港、タイに先行して実験環境が整った韓国中央大学では韓国語を学ぶ乳児を対象とした破裂音の弁別実験を進めることが出来た。韓国語は、無声破裂音が3種類存在する世界でも珍しい言語で、韓国語を学ぶ乳児が破裂音の弁別を獲得していく過程を実験的に調べた初のデータである。この成果は、2017年7月にフランス、リヨンで開催されるInternational Association for Studies of Child Language において乳児の音素発達のパネルでの口頭発表に採択されている。 更に、乳児音声発達研究におけるアジア言語の実験的比較研究の重要性についてPIは国立国語研究所や香港大学において講演を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、タマサート大学、香港大学ではパイロット実験を実施しており、終了次第本実験が開始できる予定である。まずそれぞれの母語の破裂音の対立の弁別ができるかどうかを調べる実験から開始する。香港では、トーンの弁別実験も同時に進める。日本語や韓国語では、破裂音の音響特性が地域や世代、性別により変化していることが知られており、乳児にとって主たる入力となる母親の発話に含まれる破裂音をどのような音響特性をもつのかを調べるため母親の発話を録音する実験も予定している。特に日本語では、理研母子対話音声コーパスを用いて母親の発話に含まれる破裂音の特性が発話のレジスターによって変動するかどうかを検討する。 2018年8月には、理研において第一回の国際シンポジウムを開催する。このシンポジウムは日本赤ちゃん学会若手部会との共催で、本共同研究の国際分担者と日本の若手の赤ちゃん研究者が研究発表を行い、アジアの赤ちゃん研究を国内に発信するとともに、アジアの若手研究者が交流を深める機会を提供することを目指している。
|