研究課題
本研究は、乳児の音声発達を、これまで実験的研究ができる環境になかったアジア言語を統一した実験手法を用いて調べる研究で、日本語、韓国語、広東語、タイ語のアジアの4言語を学ぶ乳児が破裂音の弁別を学ぶ過程を中心に研究を進めてきた。韓国語とタイ語は3種類の破裂音、日本語と広東語は2種類の破裂音を持つ言語で、従来の欧米言語から得られた結果と比較するには最適である。これまでの実験で、これらの言語を学ぶ乳児は、6ヶ月以前には母語の破裂音の弁別は困難で8から10ヶ月以降になって弁別ができるようになることが解ってきた。これは、従来の英語を学ぶ乳児の結果とは対照的で貴重な知見である。また、日本語や韓国語では破裂音の弁別に用いられる音響特性が世代間で変化していることも知られており、乳児がこれらの音素を獲得する際にこのような変化がどのような影響を及ぼすかを調べるために母親の発話中に含まれる破裂音の音響特性を詳細に解析する研究も進めた。2019年度は、これらの成果を国内外に広く発表流布するための活動を行った。5月に韓国ソウルで開催されたHis HISPhonCog 2019 Conference では4ヶ国語で最も進捗が早い韓国語のデータを発表した。7月には本課題主宰でアジア言語の音声発達をテーマにした国際シンポジウムを東京大学で開催した。また8月には4年に1度開催されるInternational Congress on Phonetics and Phonology(ICPhS、メルボルン、オーストラリア)では、オハイオ州立大学のMary Beckman教授との共催で、本課題を中心とした特別シンポジウムを開催し成果を発表した。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、当初計画していた乳児が母語の破裂音の弁別ができるようになるのは何ヶ月頃であるのかを調べる実験は日本語、広東語、韓国語ではほぼ終了している。韓国語、日本語のデータは論文化の作業を進めている。韓国語ではこの他に摩擦音や歯擦音の実験、破裂音の弁別と、母親の破裂音の発話との相関を調べる実験なども進んでおり、それぞれ学会発表や論文化などの作業を進めている。タイ語でも、3種類の破裂音のうちvoiceless とvoicelss apiratedの弁別と、コントロールの実験は終了し、論文化する準備が整った。しかしタイ語では、年少の(4から6ヶ月)の乳児のリクルートが非常に困難で、もう一つの対立であるpre-voiced 対voiceless の対立については更に数名の実験が必要である。このためタマサート大学の研究協力者であるDr. Onsuwan らはタイ国内の病院や母親向けのイベント等に出向いてパンフレットを配るなどリクルートに工夫を凝らしている。また国内の雑誌にジャーナルに乳児研究を紹介する論文を発表し、多くの反応が得られており、今後のリクルートに期待が持てる。又、広東語の実験は2018年度までにほぼ終了できた。そこで、中国語の別の方言である北京語を学ぶ乳児を対象とした実験を開始するためシンガポール国立大学のLeher Singh教授の協力を得て準備を進めていた。しかし昨年12月以降の新型コロナウィルスの影響で、中断している。また、乳児を対象とする実験は日本、韓国、タイでも中断を余儀なくされている。
2020年度は最終年度となるため、残りの実験を完了することと、これまで実施してきた実験結果の成果を国際学会や論文として発表することを目指している。しかし、世界的な新型コロナウィルス流行の影響で各国での研究や、国際学会などが大きな影響を受けており、本年度中にどの程度まで取り戻せるかの見通しが立たないのが実情である。7月にグラスゴーで開催される予定だったInternational Congress on Infant Studies では本課題から7本の発表を予定していたが、オンライン開催になったため、ポスターの発表は行うが海外の研究者らと直接議論する機会が限られる。実験が再開できない場合には、これまでのデータの執筆に注力しなるべく多くの論文の投稿ができるよう努力する予定である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 5件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 13件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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