研究課題
本研究は、固体中のナノ量子システムにおいて、スピン縮退した量子系の幾何学的量子操作により、長距離伝送光子の量子状態を多数の核子で構成された集積量子メモリーに選択的に書き込み、長時間保持し、誤り訂正し、メモリー間の量子もつれを読み出す技術を確立することを目的としている。具体的には、H28年度に量子テレポーテーション原理による光子から核子への量子メディア変換を行った。これは、伝送媒体である光子から記憶媒体である核子に量子状態を転写して保存する量子メディア変換を行ったという意義がある。この実現には、電子のスピン軌道相互作用、電子・核子間の超微細相互作用という物質に内在する量子もつれの力を利用した、提案者が考案した伝令付き量子テレポーテーション転写の手法を用いた。この手法の利点は、媒介となる電子を非破壊測定することにより転写の成功を100%検知でき、光子吸収の効率を100%とする必要がないことである。まずは、電子と核子の双方向のC-NOT操作によりに量子もつれ状態を形成した。その後、電子をA2あるいはA1準位(軌道・スピンもつれ状態)に励起する光子を吸収した際、光子の量子状態は核子へと転写した。本転写の核となる技術は光子吸収による光子と電子の量子もつれ測定であり、提案者が世界に先駆けて成功したものである。光によるスピン状態トモグラフィ測定を応用し、任意状態の転写で忠実度85%以上の量子メディア変換を達成した。この転写が可能なのは、光子偏光、電子軌道、電子スピンの全てが角運動量1の縮退した|±1>部分空間を論理キュービットとしているためである。特にダイヤモンドの強い結晶場(四重極場)のおかげで電子スピンの|0>準位だけが大きく分裂(3GHz)することを利用しており、人工的にトラップした原子やイオンでは不可能である。
2: おおむね順調に進展している
当初の提案書に示したH28年度の計画通り、量子テレポーテーション原理による光子から核子への量子メディア変換を達成した。平均の変換忠実度は少々低い値に留まったが、これまでには不可能であった光子から核子への変換の量子トモグラフィに成功し、古典限界である67%を大きく超える結果が得られた意義は大きい。これにより決定論的な量子中継の要素技術確立を目指し、伝送レートが距離に依存しないスケーラブルな第三世代量子光通信の実現可能性を示すことができた。このような伝送量子となる光子から量子メモリーとなる核子への書き込みは、量子テレポーテーションの原理を応用した伝令付き量子メディア変換と、超広帯域電磁場によるアダプティブなデジタルコヒーレント量子制御に基づくものである。
1.集積メモリー核子への選択的転写NV周辺の多数の同位体炭素(13C天然存在比1%)の核子を集積メモリーとして利用し、光子の量子状態を選択的に転写する。13C核子はスピン1/2であり、スピン1の14Nのように|0,0>への初期化を用いる手法は使えない。しかしながら、電子-核子スワップ操作と電子の初期化を忠実に実行することにより、電子-核子量子もつれは生成できる。後は14Nと同様の操作で電子と核子の量子もつれを生成し、量子テレポーテーションの原理で転写する。遠方の13Cでは超微細相互作用が弱く、単純なマイクロ波共鳴によるC-NOT操作が不可能だが、幾何学的エコーの繰り返し周期をターゲットとする13Cに共鳴させることで、選択的にC-NOT操作する。ここでは提案者の開発した縮退スピンの幾何学的バンバンエコーの技術を活用する。周期的なエコー操作のフィルタリング効果により、ターゲットとする核子だけを操作し転写できる。エコーの周期を変えることにより、共鳴周波数の異なる別のメモリーに転写することができる。2.集積メモリー核子間の決定論的量子もつれ測定二つの核子間の量子もつれ状態を完全測定(完全ベル測定)することにより、電子の状態と光子により伝送された状態との間の決定論的な量子もつれ測定を可能とする。これにより、光子から核子への量子メディア変換に成功した際には、絶対に失敗のない決定論的な量子状態スワップが可能となる。これが一方向型量子中継の必要条件である。このためには、量子もつれ測定を一度始めたら確実な答えを出す測定(シングルショット測定)が不可欠である。このシングルショット量子もつれ測定は、通常の非縮退の最近接核子を用いた例はあるが、縮退した遠方の核子では例がない。
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http://kosaka-lab.ynu.ac.jp/