(1)アルミナ表面上に構築されたパラジウムのナノ構造体の構造と電荷状態について検討した。ナノ構造体は、ドメイン境界の直線欠陥やジグザグ欠陥、ステップに吸着しやすいことが分かった。他方、ナノ構造体と探針との間の接触電位差は、ジグザグ欠陥に吸着したナノ構造体、直線欠陥に吸着したナノ構造体、ステップに吸着したナノ構造体、テラスに吸着したナノ構造体の順番で大きな値を示した。この結果は、アルミナ表面上の欠陥とナノ構造体の間で電荷移動現象が生じていることを示唆している。 (2)表面状態による表面電位とバルク状態による表面電位を区別すために、MHz帯のバイアス電圧を印加可能な新しいケルビンプローブ力顕微鏡(KPFM)(ヘテロダインKPFMと呼ぶ)を開発した。この方法は、カンチレバーの機械的振動とacバイアスによる静電気力振動との間のヘテロダイン効果(周波数変換)に基づいている。具体的には、カンチレバーの共振周波数の2倍の周波数からわずかにずれた周波数のacバイアスを印加することにより、カンチレバーの周波数シフトに低周波数の変調成分を生じさせる。また、低周波数のバイアス電圧を印加するKPFMと高周波数のバイアス電圧を印加するヘテロダインKPFM圧を用いることにより、表面状態による表面電位とバルク状態による表面電位を原子分解能で区別できるようになった。 (3)アルミナ表面上に構築されたパラジウムPdのナノ構造体への一酸化炭素CO分子の吸着現象を検討した。その結果、CO分子が、Pdナノ構造体の周縁付近に吸着する現象を高分解能に観察することに成功した。また、その吸着に伴い、ナノ構造体全体の接触電位差が減少するとともに、CO分子の吸着位置において局所的に接触電位差が増加した。この結果は、Pdナノ構造体へのCO分子吸着に伴い、ナノ構造体の電子がCO分子に移動したことを示唆している。
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