研究課題/領域番号 |
16H06329
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹内 昌治 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (90343110)
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研究分担者 |
森本 雄矢 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (60739233)
根岸 みどり (加藤みどり) 東京大学, 生産技術研究所, 特任研究員 (30300750)
長田 翔伍 東京大学, 生産技術研究所, 特任研究員 (40751441)
興津 輝 東京大学, 生産技術研究所, 特任教授 (10378672)
大崎 寿久 公益財団法人神奈川科学技術アカデミー, 人工細胞膜システムグループ, 研究員 (50533650)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | マイクロ・ナノデバイス / ナノバイオ / 移植・再生医療 / 再生医学 / 細胞・組織 |
研究実績の概要 |
本研究では、申請者らが考案した「細胞ファイバ技術」に関して3つの大きな目的がある。 一つ目の「細胞ファイバの汎用的製造技術の構築」について、平成28年度は細胞ファイバの作製と操作に関する新規技術を開発した。具体的には、光造形法による一体形成の流路を達成して流路の再現性向上に成功した。また、ファイバ作製時の流速や硬化溶液の組成を変化させることで、螺旋状、鎖状、数珠状といった形状の異なるファイバを作製可能であることを実証した。さらに、螺旋状ファイバを積み上げることで複雑な立体構造の構築に成功し、その成果を国際誌であるSensors and Actuators B: Chemical誌に発表した。 二つ目の「細胞ファイバの培養条件の最適化」については、細胞種ごとにファイバ化と培養の最適条件を示した「細胞ファイバデータベース」の作成を目指し、平成28年度は特に神経細胞ファイバと肝細胞ファイバの作製・培養条件を確立することに成功した。 三つ目の「細胞ファイバ技術の応用展開」について、平成28年度は、構築した骨格筋三次元組織内の分化制御因子や構造タンパク質を蛍光標識して観察することで、組織成熟化評価が可能であることを明らかにし、基礎生物学ツールとしての有用性を確かめた。また、ヒトiPS細胞由来心筋細胞ファイバが種々の薬剤に応答して収縮力や収縮頻度が変化することを確認し、薬剤評価システムとして利用できることを示した。疾患モデルの構築に向けては、ヒトiPS細胞由来神経幹細胞のファイバ作製条件の最適化を行い、髄鞘様構造の形成が誘導されることを認めた。これは、細胞ファイバ技術が既存の培養方法よりも神経細胞の分化・成熟を促進することを示唆する結果である。最後に、細胞移植治療への応用展開を図るため、Ⅰ型糖尿病治療を想定した膵β細胞ファイバの作製条件について明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度中に、特に「細胞ファイバの汎用的製造技術の構築」に関して、当初の計画以上に大きく研究が進展した。まず、ファイバ作製時の流速や硬化溶液の組成を変化させることで、螺旋状、鎖状、数珠状と種々の形状のファイバを作製可能であることを実証した。特に、螺旋状ファイバについてはシェルのアルギン酸に含まれるクエン酸量や硬化溶液中のポリエチレングリコール量を最適化することで、直径の異なる2種類の螺旋状ファイバを作製可能であることを示した。さらに、これらの螺旋状ファイバを、ノズルから吐き出した後、約1cm積み上げることに成功し、国際誌であるSensors and Actuators B: Chemical誌に発表した。この技術は、当初、平成29年度以降に計画していた3Dプリンタによる細胞ファイバを「巻く・束ねる」技術に発展可能であるため、当初の予定を前倒しして、平成28年度から3Dプリンタを用いた細胞ファイバのプリンティングや積層化についても検討を開始した。高精度なプリンティングおよび積層化による立体構造構築を実現するために、200nmの移動制御が可能である精密ステージを購入し、細胞を含まないゲルファイバによる積層化実験をすでに開始している。平成29年度以降の研究では、細胞ファイバを用いて、細胞へのダメージを最小限に抑えた状態でのプリンティングによる積層化可能な条件の検討、さらにそのように構築される三次元組織の長期培養法を確立することで、細胞ファイバ技術による大型組織の構築を達成する。
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今後の研究の推進方策 |
「細胞ファイバの汎用的製造技術の構築」については、平成28年度の研究で、種々の形状のファイバを作製可能であることを実証した。また、螺旋状ファイバの積み上げに成功し、プリンティングによる細胞ファイバの積層化技術についても検討を開始した。これを発展させて、平成29年度は様々な形状の細胞ファイバをプリンティングによって積層し、より複雑な大型三次元組織の構築に取り組む。 「細胞ファイバの培養条件の最適化」については、実験者が細胞種ごとに機能や形態を指標にして最適な細胞ファイバ作製条件を知ることのできる「細胞ファイバデータベース」を構築するため、まず平成28年度は、神経細胞(外胚葉由来)と肝細胞(内胚葉由来)の細胞ファイバ作製条件を確立した。そこで、平成29年度は中胚葉由来の細胞(骨格筋細胞など)の細胞ファイバ作製条件を確立し、発生生物学的な細胞分類に基づく細胞ファイバの最適作製条件を検討することで、平成30年度以降にデータベース化に着手する。 「細胞ファイバ技術の応用展開」については、平成29年度も引き続き骨格筋ファイバの筋線維形成過程の解析を行うほか、肝細胞ファイバを用いた肝再生モデルの構築に着手する。また、ヒトiPS細胞由来心筋細胞ファイバの既知薬剤に対する応答性を生体と比較することで、臓器チップへの応用可能性の検証を進める。平成28年度にヒトiPS細胞由来神経幹細胞ファイバをニューロンに分化誘導することで形成が確認された髄鞘様構造については、平成29年度は機能について神経学的解析を進め、平成30年度以降の研究で多発性硬化症の病態モデル構築に発展させる。細胞移植治療への応用展開に関しては、平成29年度以降はヒト医療への応用を想定し、免疫正常動物への膵β細胞ファイバやシュワン細胞ファイバの移植実験を推進するため、移植細胞の免疫系による拒絶を回避可能なシェル材料の開発を開始する。
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備考 |
第31回リバネス研究費池田理化再生医療研究賞「細胞ファイバ技術を用いたヒトiPS細胞高密度三次元培養技術の開発」池田和弘
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