研究課題/領域番号 |
16H06330
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
白石 誠司 京都大学, 工学研究科, 教授 (30397682)
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研究分担者 |
安藤 裕一郎 京都大学, 工学研究科, 特定准教授 (50618361)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 半導体 / スピンカレント / 電界効果 / トポロジカル / 原子膜 |
研究実績の概要 |
最大の成果は普通の金属が半導体的になり、スピンカレント輸送を阻害するスピン軌道相互作用を大きく抑制できる新物性を発見できたことである。ポイントは金属を超薄膜化することと高密度キャリア蓄積を可能とするイオン液体ゲートを組み合わせることにあり、これによって電界効果トランジスタと同じ原理で金属の物性を制御できる。本研究では最もスピン軌道相互作用が大きくスピンカレント輸送に不適なはずのPtでさえ、スピン軌道相互作用の指標の1つである逆スピンホール効果を測定限界以下まで抑制でき、同時に素子抵抗も50%変調することに成功した。 2番めの成果はトポロジカル絶縁体(TI)におけるスピン計測である。従来TI性がバルグバンドからの熱励起キャリアの寄与により150 K以上で失活していたのが問題であったが、巧妙な素子構造と計測技術を編み出しTI性が失活する室温でもTI性によるスピンカレント計測に成功しただけでなく、そのスピンカレントがTIのスピン軌道相互作用を介して電流に相互変換されることをオンサーガーの相反性を有する形で初めて実証することに成功した。 やはり新奇半導体材料である遷移金属ダイカルコゲナイドを用いたスピン素子に関してはCVD成長された直接遷移半導体(バンドギャップ約1.6 eV)である単層MoS2に対するNiFeとの界面で最小ショットキーバリア35 meVを実現(従来の半分)した。界面ショットキーバリアの制御はTMDに面直方向に誘起され電荷の運動量と自動的にロックするスピン偏極由来のスピンカレント計測に極めて重要であり、意義深い成果である。 他にBiをSiにドープすることによって人工的にスピン軌道相互作用を導入・制御することにも成功している(APL2018)他、スピンカレントを用いたXOR演算にも成功しており基礎から応用まで俯瞰的視野から幅広く研究を推進している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本提案では3つの目標を掲げて期間内での達成を目指しているわけであるが、極めて順調に研究が進展し、目標Iと目標IIについてはほぼ達成し、目標IIIもおおむね順調に研究が推移、一部当初予想を超えるよい成果も得た。 目標Iでは(i)スピンカレント緩和機構を簡便高速に計測評価できる高周波法の確立、(ii)同手法の活用によるスピンカレント伝搬と素子化に好適な材料群の選択、(iii)熱的スピンカレントをSi中で生成することによる電気的、動力学的、熱的に生成されたスピンカレント物性を完全対応させることに成功、の3つをすべて実現した。目標IIでは、(i)ドーピング濃度とドーパント種によるスピンカレント緩和機構をスピンカレント伝搬に現状最も好適なSiにおいて詳細に検討し指導原理を得ることに成功、(ii)理論家との協同によるSiCを対象にしたスピンカレント緩和機構の検討と理解、(iii)Si中のスピンカレント緩和機構におけるフォノンと不純物の寄与の定量的評価と理解、(iv)Siスピントランジスタの動特性悪化の起源の解明、の4つをすべて達成した。目標IIIについてはTMDスピンカレント素子創出計画において当初目標どおりの進展をみせており、TIスピンカレント素子ではバルクキャリアの寄与でTI性が失活する室温でもTI性に基づくスピンカレントを電気的に計測することに成功しており、こちらも予測以上の進展をみせている。更に研究遂行後の将来構想となっているスピンカレントを用いた論理演算のデモンストレーションの実現、当初構想には全くなかったイオントロニクスとスピントロニクスの融合による、電界効果トランジスタと同じ動作原理で動作する金属超薄膜スピンカレント素子の創出と、コペルニクス的発想の転換による新奇スピンカレント物性現象の発見などがあり、上記評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように極めて順調に研究は推移しており、3つの目標のうち目標Iと目標IIはすでに達成できている、と言って良い。目標IIIも上述のアプローチで目標達成できることはほぼ確実と思われる。そこで、向こう2年の研究期間には、安全運転で残りの目標を達成することだけを目指すのではなく、当初構想を超えるような(既に一部でそのような成果も報告できたこともあるため)更なる「大ホームラン」を狙う、という挑戦的かつ果敢な気概を持って研究を推進したい。
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備考 |
(1)については大阪科学技術センターHPに掲載の他、朝日・毎日・読売・京都など新聞各紙で報道された他、NHKの関西ニュースでも報道された。
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