研究課題/領域番号 |
16H06332
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
三谷 誠司 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, 副拠点長 (20250813)
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研究分担者 |
岡林 潤 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (70361508)
三浦 良雄 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, 独立研究者 (10361198)
介川 裕章 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, 主幹研究員 (30462518)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 磁性 / 表面・界面物性 / 超薄膜 / スピン軌道相互作用 / 垂直磁気異方性 / 軌道分光 / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
垂直磁気異方性等の重要な界面磁気機能性の起源となる界面スピン軌道結合の微視的解明に関して、(1) 高品位試料作製と新規ヘテロ構造の創製、(2) X線磁気円二色性(XMCD)を中心とした磁気分光、(3) ヘテロ接合系の第一原理計算を結集して研究推進を図った。以下に主要な成果を列挙する。 (1)Si基板上に作製したW/Fe/MgO/Tb積層構造において、スパッタ法で作製した多結晶Fe層では初めて明瞭な垂直磁化特性を実現した。一般的に用いられるBがなくても、アニール前のFeがアモルファス構造で得られればMgO(001)配向が実現できること、界面近傍の酸素量が垂直磁気異方性の発現に大きく影響することなどが確認できた。 (2)Cr/Fe/MgAl2O4/Fe積層構造において、Fe中に量子井戸準位が形成されていることを確認するとともに、トンネル異方性磁気抵抗効果(TAMR)が大幅に増大することを発見した。特筆すべき点は室温での TAMR比であり、これまでの最高値となる1%を超える値である。量子井戸の形成とともに界面でのスピン軌道結合効果が顕著になってものと理解できる。微視的機構の一層の理解のために行った第一原理計算では、Rashba型ではなくLS型のスピン軌道結合が寄与していることが明らかになった。従来のFe/MgO系等での研究では、Rashba型スピン軌道結合が支配的であることが報告されており対照的である。 (3)強誘電体上に形成したCu/Ni多層膜のXMCD測定により、歪み量を変化させるその場測定に成功した。これにより、Niの格子歪みと軌道磁気モーメントの相関が明らかになった。これは、従来の現象論的磁歪の概念を越えたorbital elastic effectと呼べるものであり、本研究が目指す界面スピン軌道結合の微視的解明そのものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
整数原子層の厚さのFe層を正確に成長させたCr/Fe(nML)/MgO/Fe試料を用いた実験では、トンネル異方性磁気抵抗効果の増大を発見した。さらに特筆すべきこととして、界面でのスピン軌道結合が通常議論されているRashba型ではなく、LS型になっていることが第一原理計算による理論解析で明らかになった。顕著な界面磁気および磁気伝導効果におけスピン軌道結合が、LS型であるかRashba型であるかを判別してその理解に達しており、当初の目的を達成している。 また、Cu/Ni多層膜のXMCD測定では、歪み量を変化に対する軌道磁気モーメントのその場測定に成功した。これにより、Niの格子歪みと軌道磁気モーメントの関係を明らかにした。これは、現象論的磁歪の概念を越えた微視的なorbital elastic effectの解明であり、本研究が目指す界面スピン軌道結合の微視的理解そのものである。 これらの計画した重要な進捗より、順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
引続き、界面スピン軌道結合の微視的解明に関して、(1) 高品位試料作製と新規ヘテロ構造の創製、(2) X線磁気円二色性(XMCD)を中心とした磁気分光、(3) ヘテロ接合系の第一原理計算を結集して研究推進を図る。同時にデバイス応用を狙い、より大きな界面垂直磁気異方性や関連磁気物性の創出に注力する。具体的には、以下に例示した項目について重点的に推進する。 (1) 更に大きな垂直磁気異方性を得るためには、バンド構造由来では限界があり、スピン軌道相互作用の大きい元素を用いることが必須であると考えられるため、5d元素、希土類を用いて研究を加速していく。第一原理計算と直接比較が可能な、磁性超薄膜と酸化物層からなる種々の積層膜を中心に高品位単結晶試料を作製し、特にFe/W/MgAlO系のような巨大物性が理論予測されているヘテロ構造を中心に研究を進める。 (2) Bruno機構等に関する基礎的理解は十分に進んだので、磁気光学総和則の枠組みを越える新規軌道状態評価法の開発等、新分野の創出に係る課題を中心に進める。 (3) 強いRashba型スピン軌道結合が得られる物質・構造の探索を行う。関連して数10 erg/cm2の巨大界面垂直磁気異方性の実現を目指す。また、巨大異方性トンネル磁気抵抗(TAMR)の更なる増大化を目指す。輸送現象に関しては、TAMRに加えて界面起因のスピンホール効果、軌道ホール効果も研究対象に含め、強いスピン軌道結合に基づくデバイス応用を推進する。 (4) トポロジカル物質など、スピン軌道効果の強い物質設計も試み、デバイス応用の芽を探る。
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