研究課題/領域番号 |
16H06345
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
今田 正俊 早稲田大学, 理工学術院, 上級研究員(研究院教授) (70143542)
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研究分担者 |
有田 亮太郎 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (80332592)
中村 和磨 九州工業大学, 大学院工学研究院, 准教授 (60525236)
酒井 志朗 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 上級研究員 (80506733)
山地 洋平 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (00649428)
三澤 貴宏 東京大学, 物性研究所, 特任研究員 (10582687)
大越 孝洋 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任助教 (10750911)
只野 央将 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, 研究員 (90760653)
野村 悠祐 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (20793756)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 強相関系 / 非平衡 / 界面表面 / 第一原理計算 / 物質設計 |
研究実績の概要 |
従来MACE(階層的第一原理強相関電子状態計算法)は密度汎関数法の局所密度近似から出発していたが、この手法には二重勘定という欠点があった。局所密度近似の影響を除去してこの二重勘定を解消し、銅酸化物超伝導体の第一原理計算に実際に応用した。 MACEで得られる有効ハミルトニアンを解くためにテンソルネットワーク法と変分モンテカルロ法を組み合わせて、非常に高い精度とその系統改良を可能にした。機械学習法を従来の変分波動関数と組合せる方法も開発した。ボルツマンマシンに着目し、従来の変分波動関数と組合わせて、フェルミオン系に適用できる高精度の制限ボルツマンマシン法や深層ボルツマンマシンによる基底状態の任意精度での表現に成功した。これらの改良手法は銅酸化物超伝導の第一原理計算や、量子スピン液体の解明に下記のように応用され、威力が示された。 多変数変分モンテカルロ法(mVMC)と、厳密対角化法のHΦコードを同一インターフェースで使える形で公開した。 銅酸化物の1,2,3バンドでの水銀系とランタン系化合物の第一原理有効ハミルトニアンを解き、La2CuO4のモット絶縁相の電荷ギャップと反強磁性の秩序モーメントの実験値を再現した。また水銀系化合物HgBa2CuO4の第一原理計算でd波超伝導の実験相図を定量的に再現した。 角度分解光電子分光法(ARPES)で得られたスペクトルから自己エネルギーをボルツマン機械による機械学習によって抽出する手法を開発し、銅酸化物高温超伝導体に適用した。実験研究者との共同研究で、自己エネルギーの正常(金属)成分と異常(超伝導)成分が互いに打ち消しあい、実験データからは直接見えないピーク構造が高温超伝導の起源であることを発見した。 β-Bi4I4が「弱い」トポロジカル絶縁体で、散逸のないスピン流のON/OFF制御ができる初めての物質であることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
改良されたMACEで銅酸化物のキャリア濃度をパラメタとする実験相図において、モット絶縁相でのギャップや反強磁性秩序モーメントを定量的に再現したうえで、キャリアをドープしたときに見られる超伝導相と電荷不均一なストライプ相を、パラメタなしで定量的に、世界で初めて再現できたことがあげられる。また新規高性能永久磁石への応用が期待されているRFe12型化合物の一軸異方性の再現や第一原理的に導出されてハミルトニアンに基づく計算で磁化や異方性の温度依存性を再現したことも挙げられ、広範な強相関物質の解明が進んだ。 さらにプロジェクトの推進の過程で、当初計画にはなかったが量子多体計算のソルバーとしてのニューラルネットワークの活用に着目し、制限ボルツマンマシンと深層学習の両方のアプローチで、機械学習の手法が、強く相互作用するフェルミ粒子系である強相関電子系の高精度の計算に有用であることを発見した。当初の目標を超えた成果である。さらにMACEのスキームに依拠せずに実験データだけから機械学習の手法を用いて、実験に隠れていた電子構造を解明することに成功した。具体的には30年来の謎であった銅酸化物に見られる特徴の少ないスペクトル関数の実験データの中に、超伝導の主因となる異常自己エネルギーの顕著なピーク構造が隠れていることを発見した成果である。今後機械学習によるスペクトル実験の解析という一大分野が開けていくと期待できる、予想を超えた成果である。 さらに開発した手法とそのコード(ソフトウエア)を公開普及して、コミュニティに供し、強相関電子系の計算を一層活性化するという活動も、3つのソフトウエア、HΦ、mVMC、RESPACKの連携で強力に進みつつあり、我が国で弱いと言われているソフト開発と普及が進んでいることも大きな成果である。RESPACKは第一原理多体摂動計算ソフトウェアで2017/7/14以来、2019/05/11までにダウンロード総数1214である。
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今後の研究の推進方策 |
計画した研究は順調に進んでおり、これらをさらに深化、展開していく。 計画外の成果として、機械学習法が量子多体状態をうまく表すのに大変有効であることと、実験結果を直接解析して、単純な解析では陰に隠れている物理量やふるまいを引き出す能力を機械学習法が持つことを示した。この成果をもとに今後は、量子多体ソルバーとしての能力を詳細にかつ深く追求し、機械学習と高精度量子多体計算を組み合わせる手法を開発する。また実験結果の機械学習による直接解析については、光電子分光の解析だけでなく、他の実験データも組み合わせた多様な展開を図って、実験データ解析による物理の解明のための機械学習スペクトロスコピー分野の確立をめざす。 また非平衡、非周期系の第一原理的で定量的な研究を推進する。開発した手法とソフトウエアを公開普及することは本プロジェクトで追究する重要なテーマであり、HΦ、mVMC、RESPACKが予想以上に強力であることが見えてきたので、連携を強化する。
定期的なグループミーティングは分担者である有田亮太郎、山地洋平の属する東京大学と代表者の属する早稲田大学で継続する。本プロジェクトの核となるグループミーティングは毎週一回早稲田大学で行い、今までも行なってきた3か月に一回程度のプロジェクトの全体ミーティングは今まで同様東京大学で開催する。また第一原理電子状態計算の手法開発においては、名古屋の豊田理研での軸足を生かしてエキスパートである名古屋大学の押山淳教授と本プロジェクトで雇用する博士研究員を交えて共同研究を展開する。また成果を発信し今後の研究の指針に役立てるべく、2019年5月に国際会議を計画する。
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備考 |
オープンソースソフトウエア開発状況 RESPACKは2019/2/26 Ver.2公開。QuantumLatticeSolver HΦは2018/9/3 Ver.3.1.0、2019/7/19 Ver.3.3.0公開。 many-variable variational Monte Carlo method mVMCは2018/7/23 Ver.1.0.3、2020/1/16 Ver.1.1.1公開。
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