研究課題
2次元三角格子を有するモット絶縁体であるPd(dmit)2塩において、量子スピン液体相に隣接する反強磁性相の13C-NMR測定によって、反強磁性相転移に伴って分子内での電荷の不均化が誘起されることを見出した。α-(BEDT-TTF)2I3における質量ゼロのディラック電子系での電子相関効果による分数量子ホール効果の実現に向けて、ランダウ準位のバレー分裂効果を調べた。その結果、0.5Kの低温、約10Tの磁場下でN=-1ランダウ準位のバレー分裂を検出した。さらに、量子磁気抵抗振動の磁場方位依存性を調べた結果、ある磁場方位において、ゼーマン分裂したそれぞれのランダウ準位が交差するが、その交差付近でベリー位相がπから0へ突然変化することを発見した。同一分子のHOMOとLUMOの各々に由来するエネルギーバンドが、共にフェルミ準位近傍に位置する多バンド系分子性導体である単一成分分子結晶[Pd(dddt)2]において、圧力下でHOMOバンドとLUMOバンドとからディラック電子系が形成されることを見出した。さらに、強結合近似モデルを用いた解析によって、単一成分分子性導体の多バンド的性格がディラック電子系を生み出すメカニズムを明らかにした。モット絶縁体のフィリング制御を広範囲に行うため、イオン液体を用いた電界効果制御法を開発した。その結果、これまで固体ゲート基板での電界キャリア注入では不可能だった高濃度ドープ領域での輸送特性計測に成功した。さらに、輸送特性の計測結果と理論計算との比較から、ドープされたモット絶縁体の電子/正孔非対称性が明らかとなった。また、光誘起双極子を用いた電界効果ドーピングにおいても、これまでの正孔ドープに加えて、電子ドープを可能にする新たな分子設計を行った。一方、Nb-SrTiO3基板を湾曲させることのできる歪み印加プローブを開発し、その計測範囲を検証した。
2: おおむね順調に進展している
主要3テーマである量子スピン液体、多層ディラック電子系、電場誘起モット転移系の各々において、当初予定していた実験を行い、順調にデータを得ることができた。また、主要備品として納入した、物理特性測定装置(PPMS)、室外空冷式圧縮機等は、問題なく稼働している。
量子スピン液体状態の発現において電荷の自由度の役割が重要であることが明らかになりつつあり、NMRや振動分光法等を用いてさらに検証していく。また、量子スピン液体EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2およびその混晶系を用いて、ESR強度のマイクロ波パワー依存性による素励起の観測、磁気熱量効果の測定による量子臨界性の検討を行う。α-(BEDT-TTF)2I3における質量ゼロのディラック電子系を用いて、分数量子ホール効果の観測を進める。28年度に、この系のN=-1ランダウ準位のバレー分裂効果を検出しており、電子相関効果による分数量子ホール効果が極低温・高磁場下で期待できる。また、ゼーマン分裂とバレー分裂した状態が準位交差を起こした場合、ランダウ準位全体にわたってエンタングルすることが、最近、理論的に指摘された。そこで、その実験的検証を計画する。28年度に発見した単一成分分子性結晶におけるディラック電子系について、高圧下での結晶構造の決定、磁気抵抗測定等を行い、その電子状態の特異性を明らかにしていく。ドープされたモット絶縁体中の準粒子が示す量子液体としての性質を明らかにするため、フィリング制御モット転移における輸送特性の変化を精密に測定し、転移点近傍におけるスケーリング則の適用可能性を検討する。また、動的平均場近似計算から予想されるような高温での量子臨界クロスオーバーとの比較を行い、伝導度の異常な振る舞いの起源を考察する。これらの計測については、新たに開発した格子歪み機構や、電気二重層トランジスタ、光誘起キャリア注入を用いて、様々なパラメーター空間での計測を試みる。また、いくつかの要素技術については、さらなる改良と新規開発も行う。
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