研究課題/領域番号 |
16H06346
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
加藤 礼三 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (80169531)
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研究分担者 |
田嶋 尚也 東邦大学, 理学部, 教授 (40316930)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 分子性固体 / 有機導体 / 強相関電子系 |
研究実績の概要 |
二次元三角格子を有する量子スピン液体候補物質β'-EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2の、圧力下でのモット転移を13C-NMRで観測することにより、この物質のモット境界では、従来の常識に反して、粒子性を持つモット絶縁体状態と波動性を持つ金属状態の間を電子がゆっくりと行き来している現象を発見した。これは、圧力-温度相図上で、電子グリフィス相と呼ぶべき新奇相が実現していることを示唆している。 高圧下で質量ゼロのディラック電子系となるα-(BEDT-TTF)2I3系において、電子相関効果による分数量子ホール効果の実現に向けて、この系の特徴の1つである大きく傾いたディラックコーンのパラメーターを実験的に決定した。さらに、このディラック電子系と電荷秩序状態との相境界近傍では、圧力(電子間相互作用)でディラック電子の質量を制御できることを見出した。 単一成分分子性ディラック電子系[Pd(dddt)2]について、DACと放射光を用いてディラック点が出現する圧力下でのX線回折実験を試み、データを得ることができた。現在、解析中である。 電気二重層トランジスタを用いてモット絶縁体の界面キャリア密度を制御した。さらに基板に歪みを加えることによって、モット絶縁体内の分子間距離を微細に制御した。そして、これら2通りの制御によって、バンドフィリングとバンド幅を2次元的にスキャンした相図を作成することに成功し、有機モット絶縁体の基底状態に関する詳細な情報を得ることができた。その結果、電子ドープ側とホールドープ側で、超伝導の起こる領域が非対称になっており、さらに電子ドープ側はオーバードープにより再び絶縁相が出現することなどが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主要3テーマである量子スピン液体、多層ディラック電子系、電場誘起モット転移系の各々について、前年度得られた結果を論文発表すると共に、当初予定していた実験を行い、おおむね順調にデータを得た。これらは現在、論文にまとめている段階である。 また、主要備品として納入した、マルチシステム用液体ヘリウム再凝縮システムは、問題なく稼働し、ヘリウム入手困難な状況にも関わらず安定に低温実験が遂行できている。
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今後の研究の推進方策 |
量子スピン液体相と競合していると考えられるValence bond order物質EtMe3P[Pd(dmit)2]2におけるモット転移の性格を、従来の圧力印加によるバンド幅制御に電界効果によるフィリング制御を加えて、明らかにする。 α-(BEDT-TTF)2I3の高圧下で実現したディラック電子系における分数量子ホール効果実現に向けて、量子ホール状態における層間相互作用効果を調べる。さらに、昨年度に引き続き、電荷秩序とディラック電子との相関・競合性が発現する新奇の物理現象を探索することを目的に、相境界近傍で質量を持つディラック電子系から質量ゼロへどのように変化するかを量子現象の観測から調べる。 これまでの研究で、単一成分分子性ディラック電子系の物質設計が明らかとなったので、既存の物質も含めて、金属ジチオレン錯体を中心に、新たな分子性多層ディラック電子系を探索する。 電気二重層トランジスタと格子歪み制御機構の組み合わせによる相図の作成という方法論は確立したので、類似の結晶系でトランスファー積分の異方性が異なるモット絶縁体や、金属錯体分子を用いた強相関電子系などに測定範囲を拡大する。また、相図の細部を詳しく計測するために、電界効果トランジスタを用いた計測も実施する。その場合は、バンド幅の制御手法として、冷却速度の制御などを組み合わせることを試みる。
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