研究課題/領域番号 |
16H06348
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中村 美千彦 東北大学, 理学研究科, 教授 (70260528)
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研究分担者 |
三宅 亮 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10324609)
小園 誠史 東北大学, 理学研究科, 准教授 (40506747)
奥村 聡 東北大学, 理学研究科, 准教授 (40532213)
下司 信夫 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究グループ長 (70356955)
上杉 健太朗 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 主席研究員 (80344399)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 火山 / マグマ / 噴火 / 脱ガス / 石基 |
研究実績の概要 |
まず天然噴出物の解析により、桜島火山で歴史時代に3回繰り返された大噴火(プリニー式噴火)の噴出物を岩石学的に調べたところ、いずれも、浅部火道に対応する深度で滞留したことを示す減圧結晶作用が発見された。この結果に基づき、大噴火の直前にマグマが火道までせりあがり、そこにしばらく充填されるプレチャージという概念を初めて提唱した。これは今後の防災対応にも役立つ成果である(Araya et al., 2019) 実験的研究ではFE-SEM下でのその場観察実験により、マグマの核形成・成長その場観察に世界で初めて成功した(無盡&中村 2018 鉱物科学会、Nakamura 2018, ISSCGF)。これに加えて、圧力も制御できるガラスチューブ法によるheat & quench実験により、ナノライト、ウルトラナノライトの結晶化に成功し、条件(温度・圧力・時間)を定量的に決定した。またTEM下での加熱実験でも、磁鉄鉱の核形成のその場観察に成功した。 マグマの捩じり剪断変形実験装置の開発では,装置の開発・組み立ておよび粘度液による粘性測定キャリブレーションに成功し,苦鉄質マグマのレオロジー性に対する脱ガス・ナノライト結晶作用の効果を調べる体制が整った。また出発物質の前処理方法と実験条件を確立した。 岩石の特性(岩石磁気的性質)に基づいた迅速なマグマ活動度の観測手法の開発では、火山噴出物の帯磁率の測定方法を確立し基本的な性質を把握し、それを新燃岳の2017-2018年に起こった一連の噴火の噴出物に適応したところ、詳細な記載岩石学的な研究結果とよく一致する変化が即時観測できた(Priyambodo et al., 2018, JpGU)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「結晶核形成・成長のナノスケールその場観察」については、すでに実際のマグマの条件下で電子顕微鏡下でのその場観察実験に世界で初めて成功しており、国際学会での発表も行った。「噴出物による火道内の温度・圧力・マグマ滞在時間の推定」についても、すでに、桜島火山の歴史時代の大規模噴火直前のマグマ蓄積条件に関する重要な論文(Araya et al., 2018)を公表し、社会への研究成果の発信も行った。 「苦鉄質発泡マグマの変形実験」については、放射光ビームラインのX線CT装置の大幅な性能アップに成功し(Uesugi et al., 2018)、また安山岩~玄武岩質マグマに対応する高温変形実験装置の製作も行った。すでに予備実験によって実験条件や出発物質の準備方法も確立しており、標準粘度液を用いた装置のチェックも終わって、レオロジー測定実験を実施するばかりとなっている。 「噴出物に基づく、活火山の噴火様式の分岐条件の決定」については、桜島火山において、通常のブルカノ式噴火-大規模なブルカノ式噴火ープリニー式噴火の分岐条件が得られつつある(坂内ほか2019JpGU)。 「岩石磁気的性質に基づいた迅速なマグマ活動度の観測手法を開発」については、実際の新燃岳噴火の機会を捉えて、水蒸気噴火からマグマ噴火への推移が本手法によって準リアルタイムで検出できることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
[A]過冷却下での結晶核形成・成長過程の実態解明:電子顕微鏡下において、マグマの条件を再現する実験条件を見出し、核形成・成長その場観察に成功したので、第一報のレター論文を投稿する。次に、条件を拡げて実験を増やし、フルペーパーを投稿する。 [B]浅部火道マグマ物性の決定実験:桜島火山大正噴火軽石を出発物質として温度1000℃前後で急速溶融し、レオメーターヘッドを用いて変形実験を行って、気泡の合体に対する剪断変形の効果や、形状緩和の気泡ネットワーク形成に対する影響の大きさを、より粘性の高い流紋岩質マグマの系と比較する。同時に粘弾性を測定し、気泡の量や変形の粘性対する効果についてのデータも取得する。 [C]活火山の噴出物を用いた噴火様式分岐条件の決定:阿蘇火山の2015年の灰噴火・ストロンボリ式噴火噴出物の記載岩石学的研究の論文を投稿する。また桜島の火山ガラスを出発物質とした、ナノライト・ウルトラナノライトの結晶化実験について、数回の追加実験を行い、その実験結果を、組成が類似した霧島火山新燃岳の噴出物に応用し、噴火様式の分岐条件を定量的に議論した論文を作成し投稿する。 [D]火道流物理モデルへの応用:桜島火山プリニー式噴火直前のマグマ蓄積状態として見いだされた、浅部岩脈状マグマ溜りに相当する火道形状を考慮した火道流数値モデルの開発および解析を実施し、火道流の計算結果と物質科学的観測データとの比較を行うことで、浅部マグマ溜りが桜島の噴火プロセスに与える影響を実証的に評価する。さらに、プリニー式噴火期と溶岩流出噴火期を対象とした火道流解析をどちらも実施することで、その噴火間の遷移過程を支配する物理メカニズムを明らかにする。 [E]岩石磁気的性質を用いた迅速なマグマ活動度指標の新開発:2017-18年の霧島火山新燃岳噴火噴出物の帯磁率をマグマ活動度評価に応用した論文を投稿する。
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