研究課題/領域番号 |
16H06352
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山子 茂 京都大学, 化学研究所, 教授 (30222368)
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研究分担者 |
梶 弘典 京都大学, 化学研究所, 教授 (30263148)
藤塚 守 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (40282040)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 環状共役分子 / 曲面状共役分子 / シクロパラフェニレン / ボトムアップ合成 / 有機デバイス / ラジカルイオン / ジカチオン / 時間分解測定 |
研究実績の概要 |
曲面・環状共役分子である新規シクロパラフェニレン類の合成とその化学変換による誘導体合成を行うと共に、それらの化合物の中性及びイオン化状態における光物性について検討を行った。 含フッ素CPPの初めての合成に成功した。さらに、環サイズの大きなCPPの光物性が興味深いことに鑑み、環サイズの大きなCPPの合成を検討した。その結果、U字状構造を持つ5、および6環単位を持つ前駆体の環化反応と生成物の還元的芳香族化により、[10], [15], [20], [14], [21]CPPを高収率で得ることに成功した。なお、[20]および[21]CPPは初めて合成された、これまで最大のCPPである。環サイズが大きくなるにつれ、蛍光が青色シフトすると共に量子収率も高くなり、[20], [21]CPPは90%を超えた。 CPPのフェニレン単位をつなぐ炭素―炭素σ結合の活性化を経る、新しい変換反応の開発にも成功した。例えば、0価白金錯体は[5]および[6]CPPの二つの炭素―炭素σ結合を活性化し、対応する環状二核錯体を定量的に与えた。この錯体に一酸化炭素を作用させた後に、酸化的条件で白金を還元的に脱離することで、環状の共役ジケトンが得られた。 [5]~[7]CPPの光励起緩和過程を時間分解分光法により測定し、すでに報告している大きなCPPの結果と比較した。蛍光量子収率は環サイズの減少とともに低下するのに対し、S1状態寿命は環サイズ依存性を示さず、[8]CPPが最も長いことを明らかにした。さらに三重項状態においては、[5]~[7]CPPの系間交差収率は[8]CPPより小さく、内部転換が著しく高速化することが示された。蛍光、系間交差、内部転換の収率と速度の環サイズ依存性より、大きいCPPでは発光過程がS1状態緩和過程において支配的であるが、小さいCPPでは内部転換が支配的になることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
材料科学への応用の点で重要な、合成のスケールアップ技術の確立を含め、おおむね順調に進展していることから、これを維持すると共に、新たな思いがけない発見にも向けた研究展開を続ける。本研究で開発した大スケール合成法について東京化成株式会社と産学共同研究を行うことで、[5]~[11]CPPが試薬として販売されるに至っている。(https://www.tcichemicals.com/eshop/ja/jp/category_index/12955/)
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今後の研究の推進方策 |
1) 新奇曲面・環状π共役分子の合成・階層化、2) 曲面π共役分子の物性評価・デバイス化、について、2018年度の成果に基づき、さらに発展・推進を図る。 1) 白金錯体を用いた環状分子合成法の発展とCPPの変換反応による誘導体の合成を中心に、新規骨格を持つベルト・チューブ状環状共役分子と、環状(共役)オリゴマー・ポリマーの合成と共に、デバイス化を志向したCPP誘導体の合成を行う。中でも、デバイス化においては、多階層電荷輸送シミュレーションに基づき、電荷移動材料として利用するCPP誘導体の設計と合成を行う。 さらに、新たに合成された分子を含め、平面上分子を含む様々な分子とのホスト―ゲスト相互作用の検討を行い、曲面・環状π共役分子が関与する積層構造の一般性の解明を図る。 2) 溶液中とバルク中での物性評価を行い、次の分子設計へとフィードバックを行う。溶液中の測定においては、酸化還元状態や光励起状態などの不安定状態のダイナミクスと物性とを吸光・発光測定、ESR測定、パルスラジオリシス等を時間分解測定や極低温測定により解明する。特に、i) CPPラジカルイオン、ジカチオンの基底及び励起状態における分子構造と電荷・スピンの局在化/非局在化、ii) ジカチオン種の熱励起ジラジカル性、iii) 新たに合成されたドナー・アクセプター型CPPにおける励起状態での電荷分離状態、iv) [20], [21]CPP等の大きなCPPの励起ダイナミクスの環サイズ依存性、について重点的に検討を行う。 さらに、CPPおよび誘導体の非晶薄膜における電荷移動度評価を行い、CPPサイズや置換様式と移動度との相関を実証する。さらに、良い結果を与えたCPPについて、CPP分子を太陽光受容体とした有機太陽電池素子作製し、その特性評価を行う。さらに、それらの結果からCPP誘導体の再設計・合成を行い、デバイス性能の向上を行う。
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