研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、トポロジーに着目した新たな環状π共役分子の合成を検討と共に、シクロパラフェニレン(CPP)の新たな機能の開拓を行った。 前者の課題では、メビウストポロジーを持つ環状π共役分子の新しい合成法を検討した。すなわち、捻じれを導入するには、直交するπ電子系を持つ分子を融合する分子設計が原理的に有効である。そこで、CPPが通常のπ共役分子と直交するπ電子系を持つことから、CPPのイプソ―イプソ炭素間にアルケンやオルト置換ベンゼンを導入する新しい合成法について検討した。その結果、二つの合成方法を開発することで、望みのアルケン及びオルトベンゼンが一分子挿入されたCPPの合成に成功した。さらに、これまで開発してきた方法を発展させることで、アルケンが2分子挿入したCPPの合成にも成功した。単結晶X線構造解析により、アルケンおよびオルト置換ベンゼンが挿入した分子は1回捻じれたメビウストポロジーをしている一方、アルケンの2挿入体は捩れておらず、ヒュッケル構造を持つことが分かった。さらに、アルケンが一分子挿入したCPPは、環のサイズが小さくなるにつれてHOMO-LUMOギャップが小さくなる、通常のπ共役分子と逆の物性を持つことを明らかにした。このような分子は、CPPに次いで2例目である。 後者については、広島大学の安部らと共同で、CPPの持つ環状共役構造が1,3-ジラジカルの電子状態に及ぼす効果について解明した。すなわち、[6]CPPと共役するように1,3-ジラジカルが発生する分子を設計・合成したところ、鎖状分子ではトリプレット状態が基底状態であるのに対し、この系では一重項のジラジカルが生成することを明らかにした。この結果は理論計算からも支持された。
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