研究課題/領域番号 |
16H06353
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
阿波賀 邦夫 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (10202772)
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研究分担者 |
原田 潤 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (00313172)
吉川 浩史 関西学院大学, 理工学部, 准教授 (60397453)
横川 大輔 名古屋大学, 理学研究科(WPI), 特任准教授 (90624239)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 固体電気化学 / 分子物性化学 / 2次電池 / 有機エレクトロニクス |
研究実績の概要 |
固体電気化学プロセスを利用した新しいエネルギー変換や情報変換の方法論の確立、さらには新物質開発を目指している。分子性材料を用いた高エネルギー・高パワー密度の分子性2次電池を実現するとともに、界面電気2重層を利用した有機エレクトロニクスを発展させる。さらに固体電気化学プロセスを利用して新しい分子性の機能性物質を作製し、分子物性科学と固体電気化学にWin-Winの関係を構築する。 (研究A:分子物性科学と固体電気化学の双方型研究)においては、これまでの研究により、MOFやCOFに対するレドックス活性の付与や、硫黄とのグラフト化からのLiS電池への応用は、期待通りの成果を上げることができた。しなしながら、さらなる性能向上のためにはMOFやCOFの低電気伝導性が克服すべき問題点として浮上した。今年度はこれを克服するため、COFと、有機高分子伝導体として知らているPEDOTとのナノハイブリッド化に挑戦した。すなわち、COFの空孔内にPEDOT原料モノマーを浸透させた後に重合させることによって複合材料を得た。これは十分高い電気伝導性をもち、スーパーキャパシターの電極として利用したところ、急速充放電に対しても、極めて大きな容量 (~1000 F/g at 500 A/g)と安定した繰り返し特性(>10,000回)が得られた。 (研究B:有機エレクトロニクスへの展開)および(研究C:固体電気化学operando計測と理論の発展)においては、一切大気暴露することなく、高真空下で2層薄膜トランジスタをつくりながら、その特性を in-situ でリアルタイム計測できる装置を立ち上げた。この装置を利用して、有機アクセプターであるF16CuPc薄膜上に有機ドナーである CuPcの薄膜をゆっくりと蒸着し、両極性チャネル形成プロセスを追跡することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究Aの研究項目「(i) MOF/COFや分子性物質を用いた固体電気化学の創出」においては、計画調書に記載した、MOFやCOFに対するレドックス活性の付与や、硫黄とのグラフト化からのLiS電池への応用において期待通りの成果を上げることができた。また、MOF/COFの低電気伝導性が更なる性能向上に対して問題点として浮上したので、これを克服するため、COFとPEDOTとのハイブリッド化に挑戦し、期待以上の成果を得ることができた。研究項目「(ii) 固体電気化学バレンス制御に基づく新規物性の開拓」においては、この研究項目の入り口にある成果として、スピンフラストレーションを含む3次元Hyper Kagome 格子を発見し、スピン液体状態を結論した。現在、この系も含め、様々な物質に固体電気化学反応下のoperando磁気測定を展開するに至った。
研究Bの研究項目「(i) 分極型光電セルの開発」においては、様々な物質の組み合わせによるMISM光電セルの発展を提案した。その後、high-κとlow-κ絶縁体から構成される非対称MISIM構造を発案し、本研究申請ヒアリングにおいて提案した。本研究ではMISIMセルの研究に集中することによって、市販の高速フォトダイオードに迫る高効率高速応答を実現することができた。さらに今年度、MISIM構造においては、S層における再結合が律速段階となることを突き止めた(論文投稿中)。研究項目「(ii) 電気二重層トランジスタの発展」においては、イオン液体ゲル作製し、上記の分極型光電セルや電気二重層トランジスに応用できることを確認した。一般に、電気二重層トランジス構造の伝達特性にはヒステリシスが現れる欠点があるが、これを逆手に取り、メモリー効果として利用する研究も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
多くの項目で研究は順調に推移している。COF/MOFの高電気伝導化など、計画調書作成後に得たアイデアや、研究進行とともに浮上して問題点を克服する過程で、本研究の趣旨に添いながらも、計画調書の内容を越える新たな成果が得られた。今後2年間の研究継続によって、すべての研究項目の達成度を計画の100%に近づけるとともに、最終的には予定以上の成果を獲得したい。
基礎研究という視点からは十分に当初目標をクリアしたと自負している。当初より目標としている分子性2次電池の研究にせよ、分極電流を利用した光電変換にせよ、実用レベルの特性を追い求めたい。
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