研究課題
本研究提案は、(1)Py-Imポリアミドにエピジェネティックな発現制御機能を付与し、体細胞の初期化やiPS細胞の分化を誘導可能にする機能性Py-Imポリアミドの開発、(2)グアニン四重鎖構造に特異的に結合する機能分子の開発、(3)DNAフレームと高速原子間力顕微鏡(AFM)を使用した遺伝子発現機構の解明と、ヌクレオソームの動的な一分子解析の研究テーマを遂行するものである。2016年度の主な研究成果は以下に示す。(1)HDAC阻害剤として知られているSAHA やヒストンアセチル化転移酵素(HAT)活性化剤であるCTBをPy-Imポリアミドに連結させた誘導体のライブラリー評価に向けて準備を整えた。(2)特定遺伝子群を制御する機能性Py-Imポリアミドの機能評価を、次世代シーケンサーやRT-PCR、マイクロアレイ、SPR解析を駆使して進めた結果を論文として報告した。(3)ヒトテロメア二本鎖構造に対する結合性リガンドのヒトテロメアDNA配列に対する結合性や、配列特異性を、SPRや蛍光顕微鏡等の解析技術を駆使して進め、結果を論文として報告した。(4)次世代シークエンサーの活用によってATRX 四重鎖構造形成に関する遺伝子発現を解析した。また、四重鎖結合性リガンドの結合性を網羅的に評価した結果も論文として報告した。(5)DNAナノケージ内部にグアニン四重鎖構造を取り込んだ構造体の構築に成功した。次いで、その構築体に対して、Mao教授の光ピンセット測定による力学的な解析を行った結果、世界で初めてDNAナノケージ内でDNA高次構造が安定化する現象を捕捉した(Nature Nanotech. In press)。遺伝子発現に関連するヌクレオソーム全体の動態解析に向けて、これらの測定解析技術の改良を進め、重要課題である遺伝子発現機構の解明を目指す予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
申請者は、Py-Imポリアミドによる遺伝子活性化とDNAフレームを用いた一分子観察法、これらを組み合わせることで、遺伝子発現機構の解明に必要な動的構造変化の観測技術を確立し、その発現機構の理解を試みている。それらの研究の一環として、機能性Py-Imポリアミドによるヒト体細胞の初期化や、iPS細胞から目的とする細胞への分化の誘導への検討が進んでいる。合成した機能性Py-Imポリアミドに対する次世代シーケンサー等のバイオインフォマティクス解析による研究成果も順調に出ており、それらの解析アプローチから得られた結果を論文として報告している。特に、今年度は、Mao教授と共同研究を進めていた光ピンセット技術と組み合わせたDNA構造解析研究を論文の形で報告することにも成功している。結果として申請者の合成、評価解析技術を十全に活用し、研究が遺伝子発現機構の解明に向けて進展したと考える。
申請者は、遺伝子発現の特異的な制御の実現を目的として、DNA 塩基配列特異性をもつ機能性Py-Imポリアミドの合成と機能評価、解析研究を行なっている。この研究の進展により、機能性小分子によってヒト体細胞の初期化やiPS細胞からの分化誘導を可能にすることができれば、将来的に先天性遺伝性疾患や癌に対する治療技術への応用も期待できる。また、原子間力顕微鏡を活用して、一分子のDNAやタンパク質の動きを直接観察可能にする独創的な手法の開発を進めている。それらの成果として、前例ないDNAナノケージ内でのDNA高次構造の動態の観察を可能に成功している。申請者の研究グループは、今後も遺伝子発現機構の解明に向けて、「特定の遺伝子発現を制御可能にする技術」の実現に向けて、研究を進める予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 4件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 3件)
Nature Nanotech.
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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