研究課題/領域番号 |
16H06356
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉山 弘 京都大学, 理学研究科, 教授 (50183843)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 遺伝子発現制御 / エピジェネティックス / DNAナノ構造体 |
研究実績の概要 |
平成29年度の主な研究成果は以下に示す。(1)DNAナノケージ内部にグアニン四重鎖構造を取り込んだ構造体の構築し、Mao教授の光ピンセット測定による力学的な解析によって、DNAナノケージ内でのDNA高次構造の安定化を確認した。(2)鹿内教授との共同研究としてDNAフレーム内でHoliday Junctionを構築し、DNA組み換えで起きるDNA-タンパク質複合体の挙動を確認した。(3)DNAオリガミによって構築したナノscissor構造体の構築に成功し、光照射によって制御可能な動態を高速AFMによってDietz教授と解析した。(4)タンパク質とRNAを複合したナノデバイスを共同研究として開発し、哺乳類の細胞内環境での機能制御の可能性を確認した。また、(5)iPS細胞からの分化誘導を可能にするDNA配列特異的結合性リガンドの開発を進め、分化の鍵となるSOX2遺伝子の発現を特異的に抑制するPy-Imポリアミドの開発に成功した。(6)HAT阻害剤や、ミトコンドリア組織への親和性を有するペプチドをPy-Imポリアミドに連結させた誘導体を新たに設計、合成し、それらの細胞内の機能性を、次世代シーケンサーやRT-PCR、マイクロアレイ、SPR蛍光顕微鏡等を駆使して解析評価した。(7)DNAの四重鎖構造と二本鎖構造を同時に認識、結合する新規Py-Imポリアミド複合体を開発した。その特異的な結合親和性の解析のために、Phan教授とNMR技術を駆使して共同研究を進めた。(8)DNAをキラル反応場に用いる不斉金属触媒反応の開発を進めた。 上記の研究成果をまとめ、論文として報告した。将来的には、これらの研究技術の改良を進めることで、遺伝子発現に関連するヌクレオソーム全体の動態解析、並びに、遺伝子発現機構の解明に繋がると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は、Py-Imポリアミドによる遺伝子制御法とDNAフレームを用いた一分子観察法、この二つの側面から、ヌクレオソームや遺伝子発現機構の解明に必要な動的構造変化の観測技術を確立し、その解明を目指している。今年度は、DNAフレームを用いた一分子観察法の研究展開として、Mao教授やDietz教授、京大院理の鹿内教授ら等と、共同研究の形で論文として報告した。加えて、Py-Imポリアミド開発の一環として、iPS細胞から目的とする細胞への分化誘導、ミトコンドリア集積型Py-Imポリアミドの開発等、新しい遺伝子制御法の可能性を拓く検討が大きく進んだ。また、Phan教授とのDNA結合親和性評価に向けたNMR解析による研究成果も出ており、論文として報告している。 結果として申請者の合成、評価解析技術を十全に活用し、共同研究を含めて、遺伝子発現機構の解明に向けて進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は、原子間力顕微鏡を活用して、一分子のDNAやタンパク質の動きを直接観察可能にする独創的な解析手法の開発を推進している。その研究の一環としてとして、興味深いDNAナノケージ内でのDNA高次構造の動態やHoliday JunctionにおけるDNA組み換えタンパク質の挙動の観察に成功した。また、DNA 塩基配列特異性をもつ機能性Py-Imポリアミドの進展により、iPS細胞からの分化誘導やミトコンドリアへの集積が可能になった。将来的に、現在も治療法のない先天性遺伝性疾患に対する治療技術への応用を視野に入れることを考えている。 申請者の研究グループは、今後も遺伝子発現機構の解明に向けて、「特定の遺伝子発現を制御可能にする技術」の開発を重点的に進める予定である。
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