研究課題/領域番号 |
16H06357
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
三浦 英生 東北大学, 工学研究科, 教授 (90361112)
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研究分担者 |
鈴木 研 東北大学, 工学研究科, 准教授 (40396461)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 機械材料・材料力学 / ナノマイクロ材料力学 / 材料損傷 / 原子拡散 / 結晶粒界品質 |
研究実績の概要 |
多結晶構造材料の高温劣化損傷が,結晶粒界近傍の転位と原子空孔の集積に伴う粒界強度の著しい低下で引き起こされていることを電子顕微鏡観察と量子分子動力学解析で定量的に解明した.特に高温高負荷環境で発生する粒界割れは,負荷と直交する,結晶品質の大きく異なる結晶粒で構成される粒界で発生すること,これは結晶皮質の高い(強度の低い)結晶内で発生した転位が粒界近傍に集積し,結果として発生する大量の原子空孔による強度低下により生じる現象であることを定量的に明らかにした.原子配列の秩序性の評価指標である,電子線後方散乱解析から得られるIQ値と粒界強度の間には明確な正の相関があること,粒界割れが発生する臨界IQ値が材料ごとに存在していることなども定量的に明らかにした.これにより,原子配列の秩序性の定量的評価という新たな概念を材料強度研究に導入することで,材料の劣化損傷の可視化だけでなく,破壊のクライテリアを定量的に解明することができることを耐熱合金のみならず半導体用の配線材料でも確認実証することができた.また,従来活用されてこなかったEBSD分析におけるIQ値の有効利用を実現するための試験片の表面処理および電子顕微鏡の観察条件の最適化手法も確立することで,安定して汎用的に使用できる結晶品質評価手法も確立できた.これらは当初の研究計画を着実に遂行し完成させたもので,当初の研究目標を予定通り完了できたものと考えている. また,白色光源を用い,材料表面からの反射スペクトル分布を詳細に分析することで,材料表面に存在している元素や酸化物などを同定する技術を開発した.近年開発されたハイパースペクトルカメラを応用することで,材料表面の元素分布を各元素固有の反射スペクトルからサブマイクロメーターの分解能で可視化することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画調書に記載した当初3年間の研究目標である,光学反射光のスペクトル分析技術を応用した材料表面の原子拡散を伴う組織変化および関連する劣化損傷の可視化技術は,光学系の見直しは発生したものの,当初予定通り完成させることができた.Ni基超合金を対象に,サブマイクロメータオーダーの分散強化組織を大気中で鮮明に観察できることを実証するとともに,主要構成元素ごとの固有スペクトルのデータベース化,各種代表的酸化物の固有スペクトルのデータベース化も完了し,構成元素の異方的拡散現象による微細組織の変化と,酸化による材料組成の変化をサブマイクロメータの空間分解能で,大気中で観察できる技術を確立した.また,塑性変形の進行に伴う材料表面粗さの変化はスペクトルの形状には影響せず,強度のみが単調に変化することも確認したので,材料の劣化損傷に強い影響を持つ,1)微細組織変化,2)酸化物の成長,3)塑性変形の進行等を,反射スペクトルの詳細分析により大気中で観察評価する基本技術を予定通り開発することに成功した. さらに当初研究計画調書では明確には記載していなかった,本技術の有機材料系への展開について,カーボンナノマテリアルであるカーボンナノチューブやグラフェンの電子物性に及ぼす原子配列の秩序性の乱れ(炭素六員環の変形)の影響を検討したところ,ひずみの作用により電気伝導特性が金属伝導特性から半導体伝導特性の間で周期的に変動することを見出し,新たな超高感度ひずみセンサ開発への展望も拓け,新たな研究課題としての取り組みも始まっている. 研究成果は国内外の学会賞等の受賞や国際学会からの基調講演,招待講演依頼などを通し継続的に高く評価されており,少なくても当初の目標に向けて順調に研究が進展しており、予定どおりの成果が見込まれる,あるいは当初目標以上の成果が期待できる水準で研究活動が推移しているものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は開発した原子配列の秩序性変化に基づく各種材料の高温劣化損傷挙動の支配因子メカニズム解明を集中的に推進する.特にNi基超合金において明らかになった特定結晶粒界への原子空孔や転位の異常集積と結果として生じている粒界強度の著しい減少機構を物理化学的に解明し,その劣化挙動を応力(ひずみ)依存の増速拡散現象(活性化エネルギーの低下)という視点から定式化する.本評価手法を他の耐熱合金や半導体デバイス用薄膜配線材料等にも適用し,開発手法の汎用性も実証していく.また計算科学の分野である量子分子動力学解析や第一原理解析なども活用し,単なる実験データベースに止まらず,様々な実働負荷環境で生じる劣化損傷の進行を定量的に予測する評価手法の構築にも挑戦する.従来の疲労損傷とクリープ損傷を独自に規格化し,単純和として評価する線形損傷則では評価できなかった高温クリープ疲労損傷を定量的に評価できる新たな評価手法の構築を目指す.
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