研究課題/領域番号 |
16H06359
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
村山 明宏 北海道大学, 情報科学研究科, 教授 (00333906)
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研究分担者 |
寒川 誠二 東北大学, 流体科学研究所, 教授 (30323108)
末岡 和久 北海道大学, 情報科学研究科, 教授 (60250479)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 半導体量子ドット / スピン注入 / 半導体ナノ構造 / スピンダイナミクス / スピン緩和 / 半導体微細加工 / 中性粒子ビームエッチング / 自己組織化量子ドット |
研究実績の概要 |
低消費電力光デバイス実用材料であるIII-V 族化合物半導体量子ドットでは、電子のスピン緩和時間が発光寿命より十分長く、量子ドットに注入された電子のスピン状態は光電変換により発光の円偏光特性に変換される。そこで、室温動作可能な強磁性体電極から電子スピンを高効率に電流輸送するため、量子ドットへの超高速スピン注入および半導体バリア中のスピン輸送を研究し、量子ドットを用いた光電スピン情報変換システムの基盤を構築していく。交付申請書の研究計画に沿って得られた本年度の実績を以下にまとめる。 積層デバイス構造中の点状の量子ドットに対してスピン偏極電子を高速で捕獲し注入するため、二次元量子井戸に量子ドットを結合させた独自のスピン注入型エピタキシャル構造からなる光電スピン変換活性層の研究を推進した。まず、井戸ポテンシャルを介するドット間結合により励起状態のスピン偏強度を増幅し発光再結合中に維持した。また、ドットに注入された電子のエネルギー緩和過程を研究し、2種類の光学フォノン散乱が共鳴しスピン偏極が高く保たれるスピンフォノンボトルネックが存在することを示した。そこで電界効果素子を作製し、井戸とドットの次元性の異なるトンネルスピン結合に光学フォノンが共鳴散乱する極めて高効率のフォノン共鳴スピン注入を実現した。さらに、スピン注入に対する電界依存性を研究し、発光の円偏光特性すなわち注入電子スピンの偏極を電界で制御・反転できる素子を考案した。 半導体バリアのスピン輸送に関してはAlGaAs/GaAs超格子バリアの研究を進め、超格子の構造を最適化することによりスピン緩和を抑制した量子波による長距離スピン輸送が可能であることを示した。スピン緩和を抑えるスピン輸送チャネルや円偏光増幅を目指すバリアのナノ加工、金属強磁性体電極を用いるスピン注入型発光ダイオードの作製などの光機能スピン素子の研究も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究において本質的に重要な課題である、スピン緩和を十分抑制した量子ドットへのスピン偏極電子の注入操作や、半導体バリアにおける電子スピン輸送時のスピン緩和抑制に対して、以下のいくつものブレークスルーが得られている。すなわち、量子ドット励起状態の量子力学的性質を活用することで緩和が進んだ電子スピン偏極を再増幅し、また光学フォノンの共鳴散乱による高効率のトンネルスピン注入の描像を確立した。そして、独自に提案している二次元電子系と量子ドットのトンネルスピン結合を利用した新しい光スピン機能性電界効果デバイスを提案した。さらに、三次元バリア中のスピン緩和を抑制可能な、量子波による長距離スピン輸送も提案した。 まず、量子ドット層と隣接する二次元井戸ポテンシャルを介した横方向のドット間のトンネル結合により、ドット励起状態のスピン緩和により生じる少数個スピンを効率的に除去することでスピン偏強度を増幅し、さらに発光再結合中のスピン偏極度を一定の高い値に維持することも可能にした。このドット間結合は、井戸の膜厚など簡単な構造パラメーターで制御出来るため、ドット間量子エンタングルメントの研究にも有用である。また、ドットに注入されたスピン偏極電子のエネルギー緩和過程において、2種類の光学フォノンの共鳴散乱によりスピン偏極が高く保たれるスピンフォノンボトルネックが存在することを示した。そして、トンネルスピン結合にこの光学フォノン共鳴が働く高効率のスピン注入型電界効果素子を作製した。さらに、量子ドットへのスピン注入において、電子スピンの偏極と発光再結合の円偏光特性の極性を反転制御可能な電界効果素子も実現した。 半導体バリアのスピン輸送に関してはAlGaAs/GaAs超格子を用いたスピン輸送バリアの研究を進め、超格子の構造を最適化することによりスピン緩和を抑制した量子波によるスピン輸送を示すことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の課題を推進するため、本年度の研究成果を元に、室温動作可能な強磁性体電極からIII-V 族化合物半導体量子ドットにスピン偏極電子を電流輸送し注入するための研究を継続し、量子ドットを用いた光電スピン情報変換システムの基盤を構築していく。そのため、強磁性体電極を用いるスピン注入型発光ダイオードの作製を進めて行く。さらに、スピン緩和を抑制可能な1次元スピン輸送チャネル、輸送中のスピン偏極を高める希薄窒化GaAsバリア、円偏光の増幅を目指した光学共振器の超微細ナノ加工などの素子構造の研究を進める。以下に各課題の具体的な推進方策をまとめる。 量子井戸との結合量子ドットによる光電スピン変換層に関する研究成果を用いたスピン注入発光ダイオードを作製する。特に安定した室温動作に向けて、室温近傍でのスピン輸送やスピン注入におけるスピン緩和現象の研究を進め、その障害となる問題点を解決していく。また注入した電子スピンの熱脱離を防ぐため、バリア障壁の高い量子井戸に直接ドットを埋め込んだ量子構造の最適化を行い、室温における高効率の光電スピン変換を目指した検討を行う。 半導体バリア中の長距離スピン輸送に関しては、超格子バリアへの変調ドーピングや理論的にスピンの緩和を十分抑制可能な1次元スピン輸送チャネル、スピン輸送中のスピン偏極を高めることが可能と考えられる希薄窒化GaAsバリアなどの研究を継続する。 さらに、高いスピン偏極率を持つハーフメタルなどの強磁性体電極材料と、金属から半導体への高効率スピン注入を実現するための酸化物トンネルバリア材料などの検討を継続し、各種の強磁性体スピン電極を持つ量子ドットスピン発光ダイオードを作製していく。また、高輝度の円偏光発光特性と光増幅のための光共振器構造の作製や、量子井戸で円偏光を受光してスピン偏極電子に変換する量子構造スピン受光ダイオードの基礎的な検討も行う。
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