研究課題/領域番号 |
16H06361
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
尾辻 泰一 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (40315172)
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研究分担者 |
鈴木 哲 兵庫県立大学, 高度産業科学技術研究所, 教授 (00393744)
高村 真琴 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 機能物質科学研究部, 研究主任 (00622250)
吹留 博一 東北大学, 電気通信研究所, 准教授 (10342841)
Maxim・V Ryzhii 会津大学, コンピュータ理工学部, 上級准教授 (50254082)
佐藤 昭 東北大学, 電気通信研究所, 准教授 (70510410)
渡辺 隆之 東北大学, 電気通信研究所, 助教 (80771807)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | グラフェン / 二次元原子薄膜 / テラヘルツ / 複合量子効果 / プラズモン |
研究実績の概要 |
1.G-DGL(グラフェン二重層)構造プラットフォームの創製: 金属触媒を用いた新たなh-BN膜上グラフェンヘテロエピ成長法に挑んだ.h-BN上にNi等の金属触媒を蒸着し,グラフェンをCVD成長させ,その後金属触媒を除去することによりグラフェン/h-BN構造が製膜できることを確認できた.本手法ではh-BN-グラフェン界面が清浄に保たれ,触媒を用いても金属汚染のないヘテロエピ成長ができることを明らかにした. 2. プラズモン・トンネル二重共鳴のTHz増幅・発振素子応用: 独自の非対称二重回折格子ゲートの導入によって共鳴トンネルに寄与するTHzフォトンとグラフェン表面プラズモンポラリトン(SPP)との結合作用が得られ,ドレインバイアスが閾値以下ではグラフェンSPPに対応する共鳴吸収応答を示し,閾値以上では最大9%の共鳴増幅利得を得た昨年度実施の実験結果を説明しうる物理モデルの構築に成功した.DGLのプラズモンアシストトンネルの共鳴周波数をグラフェンSPPの共鳴周波数に合致させることによって格段の利得増強が期待される. 3. 新たな展開: グラフェンと黒燐もしくは黒色ヒ素燐との積層構造をチャネルとする新たなトランジスタ構造を考案した.隣接する黒燐もしくは黒色ヒ素燐層を正孔供給層とし、利得媒質となるグラフェンに対して垂直方向から正孔を注入し,電子をサイドコンタクトから水平方向に注入するキャリア注入方式を新たに考案した.正孔注入層の光学フォノン散乱によって正孔の熱化が素子でき,通常のグラフェン面内方向からの電子・正孔同時注入に比較して,桁違いの高い負性微分導電率・THz利得が得られることを発見した.本成果は,室温下でも安定したTHz帯自励発振と非線形THz波動伝搬の能動的制御を可能にするものであり,本研究で懸案となっていた課題解決の見通しを得ることができた.大きな進展である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. G-DGL構造プラットフォームの創製 【予定どおりの成果が見込まれる】 (1)剥離・転写法の高度化: 独自の二次元原子薄膜剥離・転写装置を開発し,半導体集積加工装置による金属電極形成プロセスとの連携によってG-DGLデバイスプロセス技術を完成した.(2)vdW ヘテロエピ成長法:均一大面積h-BN原子薄膜の成膜,およびh-BNドメインを一方向に揃えることに成功した.(3)h-BN上へのグラフェン再成長において,金属触媒を利用した金属汚染の無い成長実現の見通しを得た.(4)結晶品質・物性評価:独自のオペランド3次元局所場顕微分光法による結晶品質評価法を開発し,原子1層分以下の極限的空間分解能によって観測することに成功した. 2. プラズモン・トンネル二重共鳴のTHz増幅・検出素子応用 【予定どおりの成果が見込まれる】 代表者らが考案した非対称二重回折格子ゲートの導入によって結合作用が得られることを擬似的な単純構造素子の試作によって実証した.実験で観測されたバンド間遷移にともなうグラフェン単層による吸収係数2.3%を大きく上回る最大9%の共鳴増幅利得は,プラズモンが光学導電率に与える実部と虚部の位相関係が一定条件を満たすときに得られること,その実現に電子ドリフト速度がプラズモン速度を超越する条件が必要とされた従来の定説を覆す物理が内在することを発見した.この結果,デバイスの設計論として工学的に物理現象を実装することが可能となり,DGLのプラズモンアシストトンネルが重畳された二重共鳴では格段に利得増強作用が得られる見通しが得られた. 3. 新たな展開 【予定以上の成果が見込まれる】 グラフェンと黒燐もしくは黒色ヒ素燐との積層構造をチャネルとする新たな巨大負性微分抵抗のトランジスタ構造を考案し,本研究で懸案となっていた課題解決の見通しを得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
1.G-DGL構造プラットフォームの創製: (1) ヘテロエピ成長:引き続き無触媒CVD法および金属触媒利用によるヘテロエピ成長法による実現を目指す.炭素原子蒸気分子線エピタキシー(MBE)法によるh-BN上へのグラフェン再成長の目途を立てるとともに,成長面方位制御性,層数制御性,結晶品質を向上させる.(2) 結晶品質・物性評価:本研究で開発した原子一層分の極限的空間分解能を駆使して,DGL各層の物性を元素選択的かつ高空間分解 能評価し,素子特性との関係を引き続き解明する.(3)プロセス技術:本研究で開発した独自プロセス技術を援用してTHz利得の獲得に十分なGDGL基本素子構造の安定した実現を図る. 2. DGL構造によるフォトン・プラズモンアシスト共鳴トンネル型高効率THz機能素子: 本研究で考案創出したプラズモンアシスト共鳴トンネル型G-DGLをカスケード積層した構造を有する新しいTHz量子カスケードレーザー素子の試作に挑む.カスケード積層はプロセス的に挑戦性が極めて高いが,開発した二次元原子薄膜連続剥離・転写装置を第一ステップとして活用し,vdWヘテロエピCVD製膜装置の完成に受け継ぐ. 3. グラフェンSPP・DGLトンネル二重共鳴現象による超高効率THz機能素子: (1)引き続き、DGLに非対称二重回折格子ゲート構造をドッキングした独自の素子構造で高効率THzレーザー発振の実現に挑む.(2)新規考案のグラフェン・黒燐のvdWヘテロ接合構造によるTHz帯非線形波動制御の原理検証に挑む. 4.最終年度にあたる本研究の集大成: (1)グラフェンを中心とする二次元原子薄膜連続ヘテロエピタキシャル成長技術およびG-DGLプロセス技術を完成させる.(2)G-DGLの複合量子系とそのTHz非線形信号処理応用に関するデバイス設計論として体系化する
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