研究課題/領域番号 |
16H06366
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
連川 貞弘 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (40227484)
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研究分担者 |
大村 孝仁 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 副拠点長 (40343884)
小林 重昭 足利大学, 工学部, 教授 (00323931)
井 誠一郎 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 主幹研究員 (60435146)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 粒界・組織制御 / 粒界工学 / 双結晶 / 転位 / TEM内その場変形 / ナノインデンテーション |
研究実績の概要 |
本研究は「第二世代」粒界工学へのブレークスルーを図るための学術基盤の強化を目的としている。H30年度に得られた主な成果は下記の通りである。 1. TEM内その場変変形法を用いた転位ー粒界相互作用にともなう力学応答計測:AlおよびMg双結晶ナノピラーを用いて転位運動に対応する力学応答の計測を行った。Al双結晶では,応力-ひずみ曲線において弾性域とみられる低応力域においてもピラー表面や粒界が転位源として作用し転位が発生・増殖すること,粒界に堆積した転位群の応力集中により多数の転位が隣接粒に伝播,あるいは粒界からの転位生成が短時間に生じることに応答して,応力-ひずみ曲線にマクロ的な降伏が生じることが明らかとなった。さらに,圧縮変形の進行とともに,粒界面に沿ったせん断変形(粒界すべり)が生じる現象が観察された。これは粒界に吸収された粒内転位が粒界転位に分解され粒界面上をすべり運動した結果であると推察される。このような粒界面に沿ったせん断変形は,ランダム粒界を含む双結晶ピラーの方がΣ3粒界を含む双結晶ピラーよりも顕著に生じることも明らかとなった。一方,Mg双結晶においても,応力ーひずみ曲線が直線的に立ち上がる低応力領域において,粒界から一次錐面すべり系の転位が生成され半ループ状に成長する様子が観察された。 2. Fe-3mass%Si合金双結晶を用いた粒界-転位反応の素過程の解明:粒界近傍に圧入変形を導入した場合の変形後の転位組織を観察し,荷重-変位挙動との関係を明らかにした。[110]を共通回転軸に持つ(221)Σ9粒界および(114)Σ9粒界を有する2種類の双結晶を比較すると, (114)Σ9粒界には比較的大量の転位が隣接粒内に存在しており,(221)Σ9粒界に比べ(114)Σ9粒界の方が,粒界を越えた転位の伝播または粒界からの新たな転位の生成が容易であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで実施してきた研究では,非平衡粒界に関する研究において期待していた実験結果を得ることができなかったが,当初より想定されていた範囲内であり,研究計画調書の記載に沿って計画を変更して再度行う予定である。その他の研究は,概ね計画調書に沿って順調に進行しており,研究目的の達成は可能と見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
概ね研究計画調書で提案した計画通り進行していることから,今後の計画に大幅な変更はない。具体的には下記の通りである。 (1) 粒界近傍における局所力学特性評価:純アルミニウム双結晶に加え,結晶異方性の高い六方晶金属(Zn, Mg)の双結晶を用いた研究を継続して行うとともに、これまでの成果を論文として公表する。 (2) 粒界近傍における転位挙動と力学応答との関係:TEMその場変形解析をAl双結晶,Mg双結晶および超微細粒IF鋼に対して成功しており,粒界を越えて隣接粒へ転位が伝播する際の臨界応力や粒界転位源の活性化応力について定量的解析を行なっている。しかしながら,これらの値がバルク試料を用いたナノインデンテーション試験から評価される値と大きく異なっていることから,今後,共通試料を用いてTEMその場変形及びナノインデンテーション試験を行い比較検討する予定である。 (3) 非平衡粒界の構造的な特徴と力学特性:ニッケル双結晶をECAP法等の方法で強加工を行い,粒界構造の変化および粒界の局所力学特性の解析を行う。 (4) 低角粒界導入型の粒界制御:低角粒界導入型粒界制御により耐疲労特性が著しく向上することを見出している。しかしながら,本プロセスで作製した材料は結晶粒内のひずみが高い状態にある。今後は,粒内のひずみが高い状態がバルク材料特性,特に耐食性に及ぼす影響を明らかにするとともに,これらの内部ひずみを低減する熱処理条件を探索する。
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