研究課題/領域番号 |
16H06367
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
阿尻 雅文 東北大学, 材料科学高等研究所, 教授 (60182995)
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研究分担者 |
高見 誠一 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (40311550)
笘居 高明 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (80583351)
横 哲 東北大学, 材料科学高等研究所, 助教 (80807339)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 薄膜・微粒子形成操作 / 粉粒体操作 / 高分子成形加工操作 |
研究実績の概要 |
本研究では、超臨界水熱法で合成した有機修飾ナノ粒子を利用した、超高濃度セラミクスナノ粒子分散体、“フルイディックセラミクス”を設計する合理的材料設計基盤の構築を目的とする。本年度の研究においては主に、ナノ粒子の分子性が物性に与える影響の評価、有機修飾機構に基づくナノ粒子露出結晶面制御法の構築、溶媒効果の制御による非古典的核生成制御を行った。 1)本年度は、拡散係数にナノ粒子の分子性が与える影響を評価した。分子拡散の測定法であるTaylor法を有機修飾ナノ粒子の拡散係数測定に適用し、各有機修飾ナノ粒子の拡散係数の溶媒依存性を評価した。有機修飾ナノ粒子と溶媒との親和性が拡散係数に影響を与えることが示唆し、単純な「粉体」としては取り扱えない、「ナノ粒子の分子性」を提示した。 2)超臨界場での有機修飾の機構解明において、露出面が制御されていない球状CeO2を水熱条件で有機修飾処理を施すと、高い触媒活性を呈す(100)面が優先的に露出した立方体状CeO2に変化することを見出した。これにより有機修飾、さらには有機修飾による材料形態制御効果が、材料表面と修飾有機分子の平衡状態に大きく影響を受けることを示した。さらに追加実験により、速度論・平衡論までを考慮した、有機修飾ナノ粒子の露出面制御のプロセス設計指針を構築した。本設計指針は、触媒の表面処理、再生法開発においても有用である。 3)セラミックスナノ粒子の、より高度な制御を目指し、超臨界混合溶媒による粒子径制御を試みた。水―エタノール混合溶媒により、非古典的核生成の制御が可能であることを見出した。アルコールを添加することで、溶媒物性を変えるとともに、粒子表面での吸着など分子論的な効果により、サイズ制御がなされた。これまで粒径制御が難しかった複合酸化物系でも10nm程度のナノサイズ化を可能になり、本手法の適用可能性が拡張された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
始めに設定した1)ナノ素材設計手法の確立、2)分散凝集(相平衡)推算法(設計)の確立、3)凝集(相分離)構造の評価法(規則構造抽出)の開発、4)革新的「熱制御」材料創製、に関する研究を順調に遂行している。 1)ナノ素材設計手法の確立においては、すでに超臨界反応の高精度解析や修飾鎖の直接観察を達成している。有機修飾が無機ナノ粒子そのものの材料特性に与える影響に関しても、ナノ粒子の有機修飾機構の平衡論的解析実験によりさらなる評価が進められ、プロセス設計指針の構築までできている。加えて、無機材料コーティングによる表面物性制御にも展開していることから、当初の計画以上に進展していると判断される。 2)分散凝集推算法の確立においては、従来分子の溶解に用いられてきた関係式や溶解度パラメータに基づく方法論を、粒子を分子と見立てることでナノ粒子-溶媒系の分散挙動に対して適応できることを示すとともに、有機修飾ナノ粒子の溶解度パラメータ導出モデルや、表面有機修飾層の溶媒分子取り込み基づく新たな有機修飾ナノ粒子の分散性改善法を提案した。計画通りに化工熱力学に基づくナノ粒子系相平衡の推算基盤が形成されつつある。 3)凝集構造の評価法の開発においては、ナノ粒子の凝集構造と流動性の相関を実験的に明らかとし、計算科学によるその表現にも成功している。分散凝集挙動が粘度に及ぼす影響を評価するための数学的表現基盤も整えられた。加えて有機修飾ナノ粒子と溶媒との親和性が物性与える影響を示唆し、「ナノ粒子の分子性」を提示できた。当初の計画以上に進展していると判断される。 4)革新的「熱制御」材料創製に関しては、計画通りに上記の設計基盤を元に熱伝導材料であるBNの高効率有機修飾を実現している。さらにコンビナトリアル連続式超臨界水熱合成装置による高速材料探索基盤も確立できており、今後熱制御材料創製が加速することが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
1)ナノ素材設計手法の確立:放射光XAFS測定による有機・無機相互作用の評価、さらには第一原理計算を行い、最終的には有機修飾を自在設計(制御)する基盤を強化するデータ拡充を進める。 2)分散凝集(相平衡)推算法(設計)の確立:粒子間ポテンシャル評価、粒子―媒体相互作用評価を行い、実際のナノ粒子の分散・凝集の相図を再現する計算科学的評価法を確立する。化工熱力学に基づくナノ粒子系相平衡の推算基盤を確立し、さらに、上記有機修飾設計と連動させ、任意溶媒への分散を可能とする有機修飾ナノ粒子の設計指針を構築する。 3)凝集(相分離)構造の評価法(規則構造抽出)の開発:引き続き、ナノ粒子を擬似分子と捉える新科学の視点から、拡散係数、熱伝導度、粘度等の諸物性にナノ粒子の分子性が与える影響を実験的に評価する。さらに数学・計算と連動した粘性起源解析を行い、均相系での流動性の機構解明を図るとともに、凝集構造変化がどのように粘性に影響を与えるかを予測する数学-ナノ流体融合学術体系を確立する。 4)革新的「熱制御」材料創製:高分子内ナノ粒子分散・凝集構造による機能発現を体系化し、目的とする熱遮蔽、熱伝導材料の構造最適化を行う。 以上によりフルイディックセラミクスの生成原理の解明し、その設計法を確立する。それに基づき、流動性と熱制御機能とを同時達成する高性能「熱制御」材料を創製する。
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