研究課題/領域番号 |
16H06369
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
後藤 雅宏 九州大学, 工学研究院, 教授 (10211921)
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研究分担者 |
神谷 典穂 九州大学, 工学研究院, 教授 (50302766)
若林 里衣 九州大学, 工学研究院, 助教 (60595148)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 経皮ワクチン / DDS / がんワクチン / 花粉症ワクチン / 経皮免疫 / 経皮吸収 / インフルエンザワクチン / 感染症 |
研究実績の概要 |
ワクチンとは、ウイルスなどの抗原を体内に投与し、抗原特異的な免疫力を増強・記憶させ、以後その病気にかかりにくくする免疫療法である。一般的なワクチン投与は注射によって行われているため、本研究の最終目標である注射でしか投与できなかったワクチンを、塗り薬として投与できる経皮ワクチンの創製は、ワクチン注射における患者の苦痛軽減や感染症回避などが可能となり、我々の生活の質(Quality Of Life : QOL)向上に大きく寄与できると考えている。 現在までに種々の抗原タンパク質に油状ナノ分散化技術(Solid-in-Oil(S/O)化技術)を利用することで、皮膚に存在する疎水性バリアを通過しやすくなり、注射と同程度の抗体産生が達成可能であることを明らかとしている。 具体的には、経皮がんワクチン療法の開発を目的に、親水性ペプチドを修飾したTRP-2ペプチドを用い、界面活性剤の種類や比、免疫賦活剤の種類の観点からS/O製剤の最適化を行うことで、マウス皮膚に塗布してTRP-2抗原を体内に送達できるS/O製剤の調製に成功した。この製剤を用いてマウスに免疫化を行った後、メラノーマの皮下移植を行った結果、未処置群と比較して有意な腫瘍成長の抑制が認められた。注目すべきことに、S/O製剤による腫瘍抑制効果や延命効果は、注射により免疫化を行ったマウスよりも高いことが分かり、肺へのメラノーマの転移性も有意に抑制することを明らかにした。 さらに経皮花粉症減感作療法の開発においても、スギ花粉のT細胞エピトープ配列を連結し免疫賦活剤を加えた場合、あるいは連結させずに免疫賦活剤を加えなかった場合、いずれにおいてもS/O製剤に封入しマウスに経皮ワクチンを行ったところ、注射投与と同等以上にアレルギー反応の指標であるIgE抗体の産生が抑制されることを明らかにしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトでは、実利用可能な低侵襲性経皮免疫システムを構築するために、より実用化に近い抗原を用いて、(1)経皮がん免疫療法への応用、(2)経皮アレルギー減感作療法への応用の2つを大きな研究の目的として掲げた。 (1)がん免疫療法への応用 本年度は、実用化に近いがん抗原として、メラノーマ由来のTRP-2ペプチドを用いた。S/O製剤の最適化を行い、実際にこの製剤を用いてC57BL/6Nマウスに一週間おきに計2回の免疫化を行った後、メラノーマの皮下移植を行った。その結果、未処置群のマウスと比較して有意な腫瘍成長の抑制が認められた。注目すべきことに、S/O製剤による腫瘍抑制効果や延命効果は、皮下注射により免疫化を行ったマウスよりも高いことが分かり、半数程度のマウスにおいて、がんが生着しない「腫瘍拒絶」が見られた。さらに肺転移性も有意に抑制することが明らかとなった。 (2)経皮アレルギー減感作療法のための経皮ペプチドワクチン スギ花粉症の治療に効果があると報告のあった7個のヒトT細胞エピトープ配列を、トリアルギニンリンカーを介して連結させた、7crpRをS/Oナノ粒子に封入し、免疫賦活剤として知られるR-848を油状基剤に溶解させて併用した。スギ花粉症モデルマウスを用いた実験では、R-848を含むS/O製剤を用いると抗原特異的IgE値が有意に減少し、その効果は皮下注射よりも高いことが明らかとなった。また、7個のヒトT細胞エピトープペプチドを連結させずにS/O製剤に封入し、同様の実験を行ったところ、皮膚浸透性が向上した結果、アジュバントのR-848なしでも注射と同等のIgE産生の抑制効果が得られ、各種サイトカイン産生量からも、アレルギー反応が緩和されたことが示唆された。これにより、スギ花粉症の簡便な治療法への見通しが開けた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、モデル抗原ではなく、①がんや②アレルギーを対象とした実際の免疫治療に近い抗原を用いることで、油状ナノ分散化技術を用いた経皮ワクチンシステムによって、注射に匹敵する治療効果が得られることが明らかとなった。この中で、抗原ペプチドを用いた免疫療法の検討を行ったが、抗原ペプチドの性質によってS/O製剤の調製条件や免疫の活性に違いがみられることがわかった。この知見は、本システムにおける免疫産生メカニズムの解明にも繋がることから、さらに深く検討する。さらに、より実現性の高いターゲットに絞り込むことで、新しい形での油状製剤を用いた経皮ワクチンまたは経皮ドラッグデリバリーシステムを構築することを目指す。 ■S/O製剤における抗原ペプチドの最適化 TRP2ペプチドを用いたがん免疫療法の検討により、疎水性の高いペプチドはS/O製剤化することが難しく、親水基アミノ酸を付与することで改善されることが分かった。そこで、今まで不安定なS/O製剤しか得られなかったペプチドに対して機能性ペプチドの導入を検討する。また、抗原提示細胞との相互作用が高いペプチド配列、糖鎖などを修飾した抗原の開発も行う。 ■臨床実績のある花粉症抗原の利用 すでに、スギ花粉粗抗原を経口投与する事でヒトにおける花粉症の減感作療法の臨床試験が実施されている。そこで本研究では、既に臨床投与実績のある抗原をS/O製剤化する事で、本研究期間前半で確立された花粉症モデルマウスの評価系によって、スギ花粉粗抗原を経皮投与しても花粉症治療効果が得られるかを検証する。 ■ワクチン機能増強のためのアジュバント開発 今までの基礎検討ではアジュバントとして、マウスでの活性化が高いCpGやR848を中心に検討してきたが、本系ではより現実的なものとして、ヒトの経皮投与アジュバントとして実用化されているアジュバンドを利用することを計画している。
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