研究課題
研究代表者らは,これまでに50-kg級小型衛星の利用拡大を主導してきた.しかし,現在,その流れは10-kg超小型衛星,キューブサット,にまで進みはじめている.本研究の目的は,推進剤として水を活用し3種類の高効率/大推力/多軸制御可能なスラスタを統合させたオールラウンド超小型推進系を実現させることである.この目的に向けて平成28年度の下記3つの柱の研究を進めた.1.水イオンスラスタの最適化:本年度は実験および数値計算環境のインフラ整備を集中的に実施した.すなわち,水イオンビームによる推力計測測定装置の構築,遠隔操作および周波数変更可能な実験装置,既存3D-PICコードの水由来の多種イオンコードへの拡張,3D-PICコードとイオンビームコードとの融合である.この結果,既存のスラスタ形状を用いた水イオンスラスタに対して,実際の推力測定に成功し推力係数を算出し,周波数依存性の取得により最適な周波数を見出した.また,キセノンに対して水を利用することによるプラズマ密度/温度/電位の変化ならびに多種イオンの生成状況を把握した.2.水レジストジェットスラスタの形状最適化:本研究のレジストジェットスラスタは排熱利用のために低圧および低温での作動を特徴としており,レイノルズ数が低く境界層の影響を大きく受ける.本環境において最適なガス加熱部形状ならびにノズル形状を実験的に求めることに成功した.3.レジストジェトスラスタのための排熱利用衛星設計:最終目的は,衛星システムの排熱を本スラスタへ利用するため,最適な気化室設計とコンポーネント配置設計を行い,実機モデルを用いて実証することである.このために本年度は,気化室内における液滴挙動の基礎実験,衛星搭載用気化室の3Dプリンタ製造,6Uキューブサットの熱設計を実施した.この結果,気化室と通信系を最小化し,かつ熱的に成立する設計を見出すことに成功した.
2: おおむね順調に進展している
水イオンスラスタに関しては,概ね計画通りの進捗状況と言える.特に,水プラズマ中において水素イオンの存在が推力を下げることが懸念されていた,実推力測定によりその懸念が取り払われたことは幸いであったと言える.実験系の構築に関しても予定通りであり,これまでよりも格段に効率的な実験が実行可能な状況となった.計算コードにおける多種イオンの導入も大きな障害なく,複数種イオンを取り扱える状況にいたった.当初の計画から変更した点としては,水レジストジェットスラスタへの研究エフォートを深めた点である.これは2つの要因,A:本研究課題の3本柱の1つである水レジストジェットスラスタを搭載するキューブサット探査機の提案が採択され実機開発がスタートしたことと,B:低レイノルズ数による性能低下の影響が想定(文献値)よりも大きかったことによるものである.Aに関しては,本研究課題により設計した熱構造モデルおよび気化室を,実機(正確には飛翔モデルの1つ前のモデル)により実証する機会を得たことになり,これは想定外の進展と言える.Bに関しては,想定外の障壁となったが,推力測定装置の構築ならびに高精度化を実施し,パラメータスタディを実施することにより解決の見通しがたった.また,Aと関連して実機搭載に足るスラスタ設計を要求されたことから,3Dプリンタ製造技術を取り入れることにより気化室およびスラスタの小型化に成功した.
水イオンスラスタに関しては,性能向上が最大の課題である.このための試作として準備済の4種類のパラメータスタディの他,数値計算結果を用いた物理的考察を加えて,課題を解決する計画である.また,平行して推力測定精度の向上ならびに水供給システムの改修を実施して,実験効率をさらに向上させる.水レジストジェットスラスタおよび排熱再利用に関しては,実機搭載という最高の実証チャンスが得られた事実を有効利用して,研究を進める.これまでにスラスタおよび衛星設計の基礎は確立されたため,実機実証を中心に研究を進める.特に実機を使用できる場合,衛星全コンポーネントの影響を,様々な想定外の事象を含めながら,導入することができる(熱構造モデルではこの点に関しての完全な再現はできない).この優位な点を活かして,他のスラスタに先駆けて完成度を高めていく予定である.
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 5件、 招待講演 6件) 備考 (3件)
Transactions of the Japan Society for Aeronautical and Space Sciences
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