研究課題/領域番号 |
16H06370
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小泉 宏之 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (40361505)
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研究分担者 |
船瀬 龍 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (70509819)
鷹尾 祥典 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (80552661)
中野 正勝 東京都立産業技術高等専門学校, ものづくり工学科, 教授 (90315169)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 超小型衛星 / 電気推進 / プラズマ / 深宇宙探査 / 水 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,推進剤として水を活用し3種類の高効率/大推力/多軸制御可能なスラスタを統合させたオールラウンド超小型推進系を実現させることである.この目的に向けて2018年度に下記3つの柱の研究を進めた. 1.水イオンスラスタは実験と数値計算の両面から研究を進めている.水イオンスラスタを様々な条件(水蒸気流量,マイクロ波電力,マイクロ波周波数,壁面電位)で作動させることが可能となり,様々な特性が明らかとなっており,この中でも壁面電位が性能向上の大きな鍵であることが明らかとなっている.数値計算は,放電室内部の水プラズマの計算とグリッドからのイオンビーム引き出しに分かれる.前者では,電子の輸送過程が解明された他に,水特有の振動現象が発見された.後者では,水蒸気の閉じ込め効率をあげる新しいグリッド形状が提案されている. 2.水レジストジェットスラスタは,2つの宇宙実証の機会(EQUULEUSがおよびAQT-D)を得ることに成功し,衛星システムレベルでの検討が大きく進んでいる.特に,気化熱を衛星排熱からも得ることを意図した本スラスタにとって,このシステム検討は大変に価値が高い.また,同スラスタの性能を決める1つの要因はノズルの希薄気体流れであることがわかってきており,本年はその新しい計測方法の確立とより詳細なデータ取得に成功した.また,もう1つの要因である液滴の蒸発機構については,サーモグラフィを導入することで液滴表面温度を知ることで,その関係を明らかにする見込みがたった. 3.水ハイブリッドスラスタに関しては,本年から本格的な研究が進みだしたが,当初の予定していた高温ヒーターによる加熱では,金属/水の燃焼着火が困難であることが判明してきた.この原因は酸化皮膜による燃焼阻害であり,これを解決するために数種類の加熱方法が検討され,実験が計画されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
水イオンスラスタの実験に関しては,前年度までの実験装置の整備の成果として,様々な性能を明らかにすることに成功した.特に壁面電位の実験では大きな性能向上の可能性が示唆された.数値解析では,3DFull-PIC-FDTDを水プラズマ系に発展させ,詳細な内部現象を把握できる段階に来た.この成果として,放電室内周方向不安定性とそれによる電子輸送過程と水プラズマ組成が明らかにされた.また,新しい不安定(振動)モードが発見され,このモードは負イオンの生成に起因し,水プラズマ独自の現象であることが明らかにされた.また,イオンスラスタのイオンビーム計算も概ね計画どおりに進捗し,グリッドの厚みに分布をもたせるアイディアに基づく数値計算が学術雑誌へ掲載された. 水レジストジェットスラスタに関しては,別プログラムによる実証推進機および同搭載3UキューブサットAQT-Dの開発がFM完成間近まで進んだ.このAQT-Dおよび前年度より継続中のEQUULEUSによる宇宙飛翔機会の獲得により,より実機に近いコジェネレーション検証が可能となった.加えて,システムレベルの検討および検証が進み,実験室レベルを想定していた元の計画よりも大きく進んだ.スラスタを衛星に搭載状態での熱結合最適化,排熱のコジェネレーション達成条件,スラスタ特性把握,熱モデル構築等の成果が得られた.また,性能向上のために,電子ビームによる希薄気体密度計測の基礎を確立し次年度意向に測定方法の精査および改良が予定されているほか,サーモグラフィを用いた液滴蒸発機構の解明が期待されている. 水ハイブリッドスラスタの研究においては,当初計画されていたヒーター加熱では,酸化被膜に阻害され燃焼着火に達しないことがわかった.このため,テルミット反応,細線加熱,誘導加熱,水素酸素トーチなど,種々の加熱方法を検討し,最適な方法を模索している.
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今後の研究の推進方策 |
水イオンスラスタに関しては,大きな性能向上の可能性が示された壁面電位依存性への研究を進める.同時に,水イオンスラスタの特性全貌が明らかになったため,これらを従来のキセノンイオンスラスタと比較して物理的な説明する方法に取り組む.また,プラズマ計算およびイオンビーム計算の確立を受けて,それぞれの計算コードがから予測される性能向上方法の実験を進めていく. 水レジストジェットに関しては,貴重な宇宙実証機会を利用して実機システムレベルで検証を利用してその特性を明らかにしていく.特に,AQT-Dはその宇宙飛翔を控えた状態であり,宇宙運用と地上試験との差異が明らかになることが期待されている.また,レジストジェットスラスタの性能を決定することが明らかになってきたノズル内での希薄気体流について,各種実験データの補充,新しく確立された密度測定手法の精査,そして数値計算を取り入れて,予測および改善精度の向上を目指す. 水ハイブリッドスラスタに関しては,水レジストジェットスラスタが宇宙飛翔機会の獲得に伴い,当初想定の計画から変更され2018年度から研究が始動した.初期の目的は水/金属燃焼反応における水蒸気圧力および金属温度の特性把握であるが,当初の電熱ヒーターによる加熱は持続的な金属燃焼に達成することができず,これは酸化皮膜の阻害によるものであると見られている.次年度以降は,より高温に至る加熱方法の考案および実験と,酸化皮膜を除去する方法の研究をすすめる.
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