研究課題/領域番号 |
16H06371
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
山元 大輔 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所, 上席研究員 (50318812)
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研究分担者 |
木村 賢一 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (80214873)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 神経可塑性 |
研究実績の概要 |
雄の性行動を開始させる機能を持つ雄特異的ニューロン群、P1に着目し、雄の経験依存的な性行動の変容に随伴する電気生理学的変化を明らかにする取り組みを昨年度に引き続き実施した。その結果、他の雄との共同生活経験がP1ニューロン膜の生物物理学的特性をどのように変化させるのか、経験依存的同性間求愛を獲得するfruitless変異体とそうした変化を示さない野生型とでは、明確に異なることが多数の記録例によって確証され、定量的に記載できるようになった。野生型雄のP1ニューロン細胞体膜からは不活性化キネティクスの異なる3種の外向きK+電流が記録され、そのうちnon-inactivating currentは100ミリ秒の持続を持った+90mVへのステップ脱分極の間にほとんど経時的な電流の減衰を認めず、slowly-inactivating currentは20~30ミリ秒の時定数をもつsingle exponential、fast-inactivating currentは時定数1~2ミリ秒のsingle exponentialによってフィットできる減衰相を有していた。このうち集団生活と単独生活とで顕著な差を呈したのはnon-inactivating currentのみであり、キネティクスが変化しない一方で電流量は羽化直後(naive)に比して5倍程度に激増した。fruitless変異体雄に於いても3種の外向き電流が認められ、non-inactivating currentとslowly inactivating current (不活性化時定数約10~20ミリ秒)、fast inactivating current(時定数約1~2ミリ秒)とに分類された。ここでも飼育条件はキネティクスに影響を与えないが、電流量はfast-inactivating currentのみ顕著に減少した。すなわち、求愛活性の上昇はP1ニューロンに生ずるK+電流量の減少に対応し、野生型雄ではnon-inactivating current、fruitless変異体雄ではfast-inactivating currentと相関すると結論される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
経験依存的行動の変容に随伴する中枢ニューロンの電気特性変化が明確に捉えられており、今後、特定の電流成分に集中した解析によってその機構の解明が達成できる段階に到達したと判断されるため。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度には、キイロショウジョウバエの雄の求愛歌のパターンが変化する突然変異体、croakerの解析から、その原因遺伝子はCalmodulin-binding transcription activator (Camta)と呼ばれる転写因子をコードすることが判明した。croakerは雄特異的FruMタンパク質を発現するニューロンで機能して、求愛歌のパターンを作り出していた。Camtaタンパク質は Ca2+の上昇に反応して転写活性化を惹き起こすものであり、社会経験に依存した感覚入力がニューロン内のCa2+上昇を惹き起こした際にも転写を活性化することが期待される。より具体的には、他の雄個体と接触したときにCamtaがfruのP1プロモータを活性化するというシナリオが成り立つ。この可能性を我々が構築したT-TRAP改良法を用いて検討する。
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