研究課題/領域番号 |
16H06372
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
廣川 信隆 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任教授 (20010085)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2019-03-31
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キーワード | キネシン分子モーター群 / 微小管 |
研究実績の概要 |
1) B) KIF2Aの微小管脱重合機構の解明: ATPを加水分解する各段階のATPアナログを使用して、ゲルろ過法・超遠心分析・光散乱法・X線結晶解析等を融合しKIF2-Tubulin複合体の分子量・複合体の変化を解析し、KIF2のATP 加水分解による効率的な微小管の脱重合機構を解明した。(Ogawa et al. Cell Rep 2017; Ogawa and Hirokawa, Biophy Rev. 2017) 2) KIFsの神経可塑性、記憶・学習等の高次機能、及びその制御機構の解明: A) a) KIF21BのKOマウスは心的外傷後ストレス障害(PTSD)様の恐怖記憶消去過程の失調を生じた。海馬神経細胞でRac1活性の異常な上昇が生じLTDの形成が障害され、分子機構としてKIF21BがRac1GEF蛋白質と結合し機能を阻害し、LTD刺激時のRac1活性化を終息させ樹状突起スパインの形態・機能変化を生じる。Rac1活性化阻害剤の投与により恐怖記憶消去が回復し、KIF21B系によるPTSD防御の薬剤開発の可能性が示された。(Morikawa M. et. al. Cell Rep 2018, in revision) 3) A) KIF2A の出生後の海馬神経回路形成及びその障害による癲癇の分子機構の解明: KIF2Aが生後の海馬で、歯状回顆粒細胞の軸索の側枝抑制だけでなく、樹状突起の側枝伸長も抑制、海馬の回路形成に重要である事を解明した。生後にKIF2Aを欠損した顆粒細胞は、異常に分岐伸長した軸索及び、細胞体から異常伸展した軸索様の突起を多数形成し異常な神経回路を形成した。この為、海馬に異常な回帰性神経回路が形成され重篤な癲癇発作を呈する機構を解明した。 (Homma et al. eLife 2018)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1) KIFs の機能と制御機構の解明: A) KIF5の運動を抑制するPKA、PAK等を同定し、脳のKIF5のリン酸化部位を決定し、その機能的意義を検証している。KIF5/KLCのカーゴの認識に関わるKLCにつき、リン酸化地図を作成し輸送制御を解析している。又、神経活動に基本的な軸索起始部(AIS)の構成因子の輸送を担うKIF3/KAP3制御機構についてkinasesを同定し解析を進めている。
2)KIFsの神経可塑性、記憶・学習等の高次機能、及び制御機構の解明: A) b) KIF3BのヘテロKOマウスは、統合失調症及び自閉症様の症状を示し、分子機構としてKIF3BがNR2A/APC/PSD95複合体を輸送し、シナプス形成及び神経可塑性に必須である事を解明した。(投稿準備中) A) c), d) については順調に研究進行中で、研究推進方策の項で進捗状況を含め延べる。 B) b) KIF26AのKOマウスは痛覚過敏を生じた。末梢感覚神経軸索が顕著に増加し、一次感覚Neuron のカプサイシン感受性が延長した。この分子機構として、KIF26AがIntegrin signal伝達機構を阻害し、神経軸索の分枝・伸長を抑制し、Caの細胞外排出を促して神経細胞の興奮を終息させる機構を解明した。(投稿中)
3)KIFs の発生制御機構の解明: B)KIF3BのヘテロKO マウスは高頻度に多指症を生じた。Limb budの免疫細胞化学から、形態形成因子sonic hedgehog (Shh)の前後濃度勾配の顕著な障害を認めた。この分子機構としてKIF3BがPI3K signalingを阻害し、Shhエクソソームの分泌を抑制し、適度な濃度勾配を形成する事が示された。(投稿中) 以上、課題1) B)、2) B) a) は既に発表し、残る課題も大半が投稿中ないし投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
1) A) KIFs のリン酸化による制御機構の解明については、進捗状況の項のごとく推進する。 2) A) c) 視覚野の臨界期神経可塑性とKIFsの機能の解明: 視覚野における神経可塑性の優れたモデル系とされる臨界期に、マウスに暗黒飼育を施し、臨界期終了前で明環境暴露による光刺激を与え、分子細胞生物学的解析及びGCaMP6sマウスを用い二光子顕微鏡観察を行った。臨界期中の暗黒飼育により視覚野での神経活動が減衰し、方位選択性の精度も落ち、光刺激により神経活動、方位選択性精度の両方が回復した。さらに神経可塑性に重要なKIFsとその積荷のグルタミン酸受容体の発現量が暗黒飼育により減少し、光刺激により回復する事を解明した。詳細な解析の為、分子遺伝学的手法と二光子顕微鏡観察を駆使し視覚野機能または方位選択性におけるKIFs動態の重要性を検証する実験を進めている。 2) A) d) 記憶想起過程におけるKIF17の機能の解明: KIF17が、記憶獲得・保持・想起という流れの中で担う役割はまだ未解明である。これまでの私達の解析から、記憶想起の際、神経活動を契機にユビキチン・プロテアソームシステムによるKIF17の分解が起こり、その後樹状突起内での局所翻訳により発現量が回復する事を解明した。さらに詳細な解析によりKIF17分解がPSD内で行われる事と、局所翻訳が樹状突起シャフト内で行われ、KIF17 3’UTR領域を必要とする事を示す実験結果を得た。現在、局所翻訳されたKIF17による細胞内輸送の時空間的挙動の解析とKIF17新規分子メカニズムの記憶想起への寄与を検証するため、3’UTR領域欠損マウスをCRISPR/Cas9を用いたゲノム編集によって作製している。今後このマウスを用いて解析を深める。
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