研究課題
1. タンパク質共結晶化ならびにX線結晶解析を通して、全世界に広く分布するピロリ菌が保有するCagAがんタンパク質(欧米型CagA)ならびに胃がん最多発地域として知られる東アジアに蔓延するピロリ菌に特異的なCagA(東アジア型CagA)とそれらの細胞内標的分子である発がん性ホスファターゼSHP2間の複合体形成に関わるインターフェースの構造決定に成功した。その結果、欧米型CagAはEPIYAモチーフ内のリン酸化チロシン残基が構造的なコアとなってSHP2のN-SH2ドメインに結合するのに対し、東アジア型CagAはこのリン酸化チロシンに加えて、その5アミノ酸下流に存在するフェニルアラニンが第二の結合部位を提供することが明らかとなった。この結合モードの違いから、東アジア型CagAは欧米型CagAに比べて約100倍強力なSHP2結合活性を示した。東アジア型CagAによる強力なSHP2結合ならびにそれにともなうSHP2活性の著しい脱制御が日本、中国、韓国における胃がん多発の背景にあることが構造生物学的に明らかにされた。2. SHP2依存的なチロシン脱リン酸化により機能制御される核内足場タンパク質Parafibrominと相互作用する新たな転写制御因子として、がん抑制シグナル経路経路Hippoシグナル経路の標的分子として知られるYAPならびにTAZを同定した。これまでの多くの研究からYAPとTAZは転写コアクティベーターとして重複した機能を有するすることが示されている一方、互いにユニークな機能を発揮することも知られている。本研究から、TAZはチロシン脱リン酸化特異的にParafibrominと結合するのに対し, YAPはチロシンリン酸化型Parafibrominと結合することが明らかとなり、TAP,TAZ各々に特異的な活性化機構の存在が示された。
2: おおむね順調に進展している
1. ピロリ菌CagAの分子多型に依存した発がん活性を規定する機構の構造生物学的基盤を明らかにすることに成功し、CagA-SHP2相互作用を標的とするin silico創薬開発への道を拓いた。2. CagAの重要な標的分子であるSHP2が支配するParafibrominを介した新規のYAP/TAZ制御系を見出し、発がん制御におけるSHP2-Parafibromin軸の重要性を示した。3. ROSA26遺伝子座にピロリ菌cagA遺伝子をノックインしたコンディショナルCagA発現マウスの樹立に成功した。予想されたごとく、胎生期におけるCagAの全身性高レベル発現が胎生致死を誘導することが示された。以上の結果から、研究計画は概ね順調に進行していると判断した。
1. 昨年度までに、Creリコンビナーゼ依存的CagA発現マウスならびにその発展型としてのテトラサイクリン誘導性CagA発現マウスの樹立に成功したため、CagAをアダルトマウスの胃粘膜特異的に発現させた後、胃組織の継時的サンプリングを進めることで胃がん発症プロセスを時空間的に追跡する。各時点での胃粘膜サンプルを用いた網羅的ゲノム・エピゲノム異常解析を行い、 Hit-and-Run発がんの鍵を握る宿主細胞側因子の探索を進める。2. これまでの解析から、CagAを発現した胃上皮細胞ではOIS (oncogene-induced cell senescence) が強力に誘導されることが明らかにされている。そこで、siRNAライブラリー導入胃上皮細胞を用い、CagA依存的OISからの回避を可能にするホスト細胞側遺伝子の単離・同定を試みる。3. ピロリ菌CagA誘導発現胃上皮細胞において、CagA誘導に伴いゲノムDNAの損傷・蓄積が急速に惹起されることが明らかになった。そこで、CagAの急性発現が引き起こすDNA損傷の本態とその損傷誘導機構を明らかにする。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 6件)
iScience
巻: 1 ページ: 1-15
10.1016/j.isci.2018.01.003
Cell Rep
巻: 20 ページ: 2876-2890
10.1016/j.celrep.2017.08.080
Toxins
巻: 9 ページ: 136
10.3390/toxins9040136
Cell Host Microbe
巻: 21 ページ: 318-320
10.1016/j.chom.2017.02.014
Proc. Jpn. Acad., Ser. B
巻: 93 ページ: 196-219
10.2183/pjab.93.013
Cancer Sci
巻: 108 ページ: 931-940
10.1111/cas.13211