研究課題
1.腫瘍形成におけるArl4cの発現制御と作用機構 原発性肝癌157症例中26%の頻度で、Arl4cが腫瘍部に高発現することが明らかになった。また、Arl4cの発現は血管浸潤と相関し、予後不良因子でもあった。Arl4cを標的とした核酸医薬品の開発を目指し、修飾型核酸を用いたArl4cアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)の合成を開始した。Arl4c ASOを40種類合成し、肝癌細胞株HLEのArl4c mRNA発現を顕著に阻害する7種類のArl4c ASOを選抜した。Arl4cが作用する新規分子を探索するために、免疫沈降-質量分析法を用いて、Arl4cに結合する分子としてIQGAP同定した。Arl4cとIQGAPはともに膵癌に発現し、両者とも予後不良因子となった。2.腫瘍形成におけるCKAP4の細胞内局在と作用機構 CKAP4のCys100がパルミチン酸化されることを明らかにした。CKAP4の大部分が小胞体に局在するが、細胞膜にも一部存在していた。細胞膜上では、内在性のCKAP4はリピッドラフト画分に局在して、非リピッドラフト画分には局在しなかった。一方、パルミチン酸化を受けないCKAP4は非リピッドラフト画分に存在した。したがって、細胞膜マイクロドメインにおけるCKAP4の局在決定にはパルミチン酸化が必須であることが明らかになった。3.炎症を伴った腫瘍形成におけるWnt5aの発現制御と作用機構 AOM/DSSの投与により、約20週後に大腸に腫瘍が形成されるマウスモデルを用いて、Wnt5aをノックアウト(KO)すると、腫瘍の数と直径が減少した。Wnt5a KOのタイミングはDSS投与終了後4週後(大腸の炎症が消失して、クリプト構造が再生された時期)であっても、腫瘍が少なくなったことから、Wnt5aが炎症以外にも腫瘍造成に関与する可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の研究により、Arl4cの発現が肝癌と膵癌の予後に関与することが明らかになった。Arlc4の新規の採用分子としてIQGAPを同定した。これまでは、Arl4c-ARNO-Arf6経路が大腸癌や肺癌で活性化することを明らかにしてきたが、がん腫によっては別経路が存在する可能性が示唆された。また、Arl4cを標的分子とするために、修飾型Arl4c ASOの開発を開始した。本核酸医薬品による肝腫瘍(原発性肝癌と転移性肝癌)治療を目指す。新規のシグナル経路であるDKK1-CKAP4の解析では、CKAP4がパルミチン酸化修飾を介して細胞膜のリピッドラフト画分に局在することが判明した。リピッドラフト画分はシグナル分子の集積する場所として知られているので、細胞膜マイクロドメインで、DKK1-CKAP4経路が活性化されている可能性が示唆された。なお、平成28年度に予定され平成29年度に繰り越しとなったCKAP4 KO細胞の作製は成功した。Wnt5aがAOM/DSS誘導性大腸癌において重要な役割を果たすことが示唆された。すでにWnt5aを発現する細胞がSMA(-)の線維芽細胞であることを見出しているので、DSS誘導性にWnt5aが発現している細胞を、FACS(SMA、CD45、E-cadherin陰性の細胞画分)によって線維芽細胞を単離して、RNAシークエンス解析を行う段階となった。以上のように、研究が進捗し、平成29年度に行う計画も明確になったために、概ね順調に進行したと判断した。
平成28年度に見出した新規のARl4c結合蛋白質IQGAPの発現抑制と過剰発現を行い、Arl4cの活性化とArl4c依存的な細胞運動ならびに遺伝子発現に与える影響を解析する。また、mRNAシークエンス法を用いて、Arl4cの発現抑制により発現変動する遺伝子を同定する。同定した遺伝子の発現抑制と過剰発現、またはArl4c欠損細胞株での発現による運動能や増殖能、遺伝子発現の変化を解析する。CKAP4に関しては、パルミチンか酵素DHHC2の過剰発現ならびに発現抑制癌細胞株とCKAP4のパルミチン酸化サイトを変異した変異CKAP4発現株におけるAKT活性化と細胞増殖に対する影響を解析する。CKAP4細胞膜局在型癌細胞とCKAP4細胞膜非局在型癌細胞での全CKAP4結合タンパク質を比較し、CKAP4が細胞膜に局在することの意義を解明する。Wnt5aが発現SMA(-)線維芽細胞の解析により得られた知見が、既知のシグナル伝達経路の活性変化を示すものであれば、候補標的シグナルの活性化剤もしくは阻害剤を用いて、腸管線維芽細胞におけるWnt5aの発現への影響を明らかにする。単離した上述の細胞に炎症や増殖を誘導する細胞増殖因子を作用させて、Wnt5a mRNAの発現変動を解析する。また、データベースを用いてWnt5a特異的プロモータ上に存在するWnt5a発現に関与する転写因子を探索し、候補の中から発現抑制とクロマチン沈降法によりWnt5a発現転写因子を同定する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 5件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
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