研究課題
1.腫瘍形成におけるArl4cの発現制御と作用機構:臨床検体を用いて免疫染色を行ったところ、Arl4cは高頻度で膵がん症例に発現し、高発現症例は予後が不良であった。データベース解析により、膵がんにおいてIQGAPはArl4cの発現と相関して、IQGAPの発現も予後不良因子であった。S2-CP8膵癌細胞においてArl4cならびにIQGAPをノックダウンすると、S2-CP8細胞の運動、浸潤能を阻害したが、細胞増殖能には影響しなかった。Arl4c ASOを原発性肝腫瘍モデルマウスと転移性肝腫瘍マウスモデルに皮下投与したところ、対照ASOに比較していずれのモデルにおいても肝腫瘍が縮小し、Arl4cの発現が抑制された。2.腫瘍形成におけるCKAP4の細胞内局在と作用機構:DKK1依存性にCKAP4の脱パルミチン酸化が促進し、パルミチン酸化酵素DHHC2と脱パルミチン酸化酵素APT1がCKAP4のパルミチン酸化に関与した。CKAP4のパルミチン酸化はその細胞膜脂質ラフトへの局在、AKTの活性化と腫瘍増殖能に必須であった。CKAP4細胞膜局在型癌細胞とCKAP4細胞膜非局在型癌細胞でのCKAP4結合タンパク質を比較したところ、細胞膜局在CKAP4はインテグリンβ1と結合し、α5β1のリサイクリングを抑制することが判明した。3.炎症を伴った腫瘍形成におけるWnt5aの発現制御と作用機構:AOM/DSSモデルの腫瘍部における炎症性サイトカインを測定したところ、DSS投与終了後4週経過すると、定常状態に復帰し以後安定することが明らかになった。Wnt5aのノックアウトをDSS投与終了4週以後に行っても、野生型と同様に炎症性サイトカインは定常状態であり、それにもかかわらず腫瘍形成が縮小することが確認された。したがって、Wnt5aは炎症応答とは独立して腫瘍形成に関与することが決定的となった。
2: おおむね順調に進展している
Arl4c課題に関しては、Arl4c ASOを作製して、原発性肝腫瘍モデルと転移性肝腫瘍モデルに対して皮下投与することにより、肝臓での腫瘍形成阻害とArl4c発現抑制が可能であることが明らかになった。Arl4c ASOはがん組織には集積したが、正常肝組織には集積しなかったことから、核酸医薬品の抗がん剤としての可能性を示す知見を得ることができた。DKK-CKAP4課題に関しては、CKAP4のパルミチン酸化の重要性が明らかになり、CKAP4の新たな機能としてインテグリンの細胞内輸送にかかわることを明らかにできた。平成28年度から繰り越したCKAP4 KO細胞作製実験が成功し、本年度の成果につながった。Wtn5a大腸がん課題では、Wnt5aの腫瘍増殖性への関与がin vivoでも初めて確認できた。以上のように研究が着実に進捗し、平成30年度に行う計画も下記のように明確になったために、概ね順調に進行したと判断した。
Arl4cとIQGAPの結合を介した膵がん細胞の浸潤や転移の制御の分子機構を明らかにする。特に、Arl4cによるIQGAPの細胞膜へのリクルートが細胞膜脂質(PIP2やPIP3等)の種により異なるかを解明する。また、膵がん細胞におけるinvade podia形成におけるArl4c-IQGAPシグナルの関与を解析する。DKK1によりCKAP4を脱パルミチン酸化にPI3K-AKT経路が関与するかを明らかにし、脱パルミチン酸化酵素APT1/2がAKTによりリン酸化され、活性化されるかを決定する。DKK1以外のDKKファミリータンパク質がCKAP4を介して細胞機能制御に関与するかを解析する。当初の計画にはなかったが、Wnt/β-cateninの新規の標的タンパク質としてAQP3を見出した。AQP3はがんにおいて高発現していることが知られているので、AQP3抗体を作製してWntシグナル-AQP3発現の発がんとの関連を明らかにする。腫瘍組織特異的Wnt5a発現線維芽細胞を同定するために、AOM/DSSマウス大腸がんモデルの腫瘍組織から繊維芽細胞を調整して、1細胞RNAシーケンス解析を行う。
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