研究課題
2017年度にArl4cの新規標的タンパク質としてIQGAP1を見出したが、両タンパク質ががん細胞の浸潤突起部に共局在するためには、細胞膜のPIP3が必要であった。また、Arl4cはIQGAP1に加えて、MMP14も浸潤突起部にリクルートして、細胞周辺の基質を分解することにより、膵がん細胞の浸潤能を促進することが明らかになった。Arl4cは肺がんの前駆病変である異型腺腫様過形成にも高頻度で発現しており、Arl4cの発現は肺がんの早期診断のマーカーになる可能性が示唆された。DKK1に加えて、DKKファミリーのDKK2,3,4もCKAP4に結合して、AKTを活性化し、細胞増殖を促進した。食道がんでは同一症例であっても、DKK1とDKK3が異なる腫瘍部には発現する例が25%存在した。抗CKAP4抗体は、DKK1並びにDKK3依存性の食道がんの腫瘍形成能も阻害した。また、CKAP4はエクソソームと共に細胞外に放出され、人血清中でCKAP4を測定できるELISAを開発できた。肝芽腫細胞株を用いて、Wnt/β-カテニン経路の新規標的分子としてGREB1を同定した。GREB1遺伝子はホルモン感受性の乳がんや前立腺がん等で高発現し、がん細胞増殖を促進することが知られていたが、今回GREB1が、ホルモン非感受性肝芽腫において細胞増殖と細胞死に関与することが明らかになった。AOM/DSSモデルにおいて、DSS投与終了4週以後の炎症性サイトカインが定常状態なった時期にWnt5aのノックアウトを行っても、腫瘍形成が縮小することが確認された。したがって、Wnt5aは炎症応答とは独立して腫瘍形成に関与することが決定的となった。
2: おおむね順調に進展している
Arl4c課題に関しては、これまでに見出された標的タンパク質ARNOの以外の新規分子IQGAP1を見出すことができた。膵がんが難治性である一つの要因はリンパ節転移であり、Arl4c-IQGAP1-MMP14経路が浸潤先端部で細胞外基質を分解するモデルできたことは、膵がんの新たな分子標的となると考えられた。DKK1-CKAP4課題に関しては、DKKファミリー全てにCKAP4と結合して、細胞増殖を促進する活性があることが明らかになった。すなわち、抗CKAP4抗体はDKKファミリーにより誘導されるがんに対して有効であると考えられた。CKAP4は細胞膜タンパク質であるが、膵が患者血清中のエクソソームにおいて検出することが可能になった。DKK1もがん患者血清中で高値を示すことから、DKK1とCKAP4の両者を発現するがん患者を選別できれば、抗CKAP4抗体を投与する患者に選択的に投与できる可能性が高くなった。GREB1に関しては、Wnt/β-カテニンシグナル経路の新規標的分子であることが明らかになった。しかし、大腸がんではGREB1が高発現していないことから、細胞固有の発現の仕組みがあることが示唆された。2017年度にWnt/β-cateninの新規の標的タンパク質としてAQP3を見出した。AQP3はがんにおいて高発現していることが知られているので、AQP3抗体を作製してWntシグナル-AQP3発現の発がんとの関連を明らかにすることを試みたが、AQP3抗体は抗腫瘍効果を示さなかった。以上のように、研究が進捗し、2019年度に行う計画も下記のように明確になったために、概ね順調に進行していると判断した。
Arl4cとIQGAPの結合を介した膵がん細胞の浸潤や転移の制御の分子機構が明らかになったので、Arl4c ASOが膵がん転移能に対して阻害作用を有するかを明らかにする。また、Arl4c ASOによる膵がん細胞の遺伝子発現変化をRNAシーケンスで明らかにする。DKK1-CKAP4シグナルの活性化が生じているがん種をさらに見出し、DKK1-CKAP4シグナル軸を標的とする腫瘍群を拡大する。当初の計画にはなかったが、Wnt/β-カテニンの新規の標的タンパク質としてGREB1を見出した。GREB1の腫瘍増殖における役割を明らかにするとともに、肝芽腫治療の標的分子になるかを検証する。さらに、ホルモン非感受性の他の悪性腫瘍におけるGREB1の発現の有無を検討する。AOM/DSSモデルにおいて、炎症が消退した後に腫瘍形成が認められる20週までの間のサイトカインやWnt5aの発現様式の経時的変化を明らかにする。
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