研究課題
昨年度にARL4Cの結合タンパク質としてIQGAP1を見出し、本年度はARL4CとIQGA1発現の臨床的意義を解析した。ARL4Cは膵がん症例の約80%で過剰発現し、IQGAP1が共に発現すると、予後不良と正の相関を示めした。ARL4C ASOは膵がん細胞の浸潤能を阻害し、膵がん同所移植マウスモデルにARL4C ASOを皮下投与すると、ASOは膵腫瘍部に特異的に集積し、リンパ節転移を阻害した。DKK1-CKAP4新規がんシグナル経路において、CKAP4は細胞質内領域がパルミチン酸化され、パルミチン酸化されたCKAP4は細胞膜上で主に脂質ラフト画分に局在し、DKK1刺激によりPI3Kと結合しAKTを活性化した。DKK1によりCKAP4は脱パルミチン酸化され、非脂質ラフト画分に移動した。一方、パルミチン酸化されないCKAP4変異体は非脂質ラフト画分に局在し、AKTを活性化できなかった。DKK1-CKAP4下流のシグナル因子を探索し、転写因子FOXM1を見出した。DKK1をノックダウンするとFOXM1の発現が低下し、FOXM1をノックダウンするとDKK1の発現が低下したことから、DKK1とFOXM1がポジティブフィードバック機構を形成することが明らかになった。膵がんと食道がん症例においてDKK1とFOXM1の発現は正の相関を示し、DKK1とFOXM1をともに発現する症例は予後不良であった。肝芽腫細胞を用いて、Wnt/β-カテニン経路の新規標的分子として、GREB1を見出した。肝芽腫の約80%の症例でβ-カテニンが高発現し、GREB1は約90%の症例で高発現していた。肝芽腫細胞において、GREB1はSMAD2/3と結合して、TGF-βシグナル阻害した。さらに、GREB1 ASOは肝芽腫同所移植マウスモデルに対して抗腫瘍効果を示した。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度もWnt関連の新規のARL4C経路、DKK1-CKAP4経路、GREB1経路とがんに関する新たな成果を得ることができた。ARL4CはIQGAP1と結合して、MMP14を細胞膜へリクルートすることにより、膵がん細胞の浸潤能を促進した。臨床的には膵がんの浸潤転移と関連し、予後因子となることが判明した。ARL4C ASOは皮下投与により膵腫瘍部まで到達することが確認され、さらに、肺がん同所移植マウスモデルに対するARL4C ASOの経気道的投与により、肺腫瘍形成が抑制された。平成30年度に報告した肝腫瘍部への到達と合わせて、臨床的有用性が示された。DKK1-CKAP4シグナルに関しては、本シグナル経路が細胞膜の脂質ラフトで活性化され、がん細胞増殖を促進することが明らかになった。脂質ラフトへの局在にはCKAP4のパルミチン酸化が重要であった。また、DKK1の受容体として知られていたLRP6もパルミチン酸化され、脂質ラフトに局在したが、DKK1により脱パルミチン酸化されることも示され、DKK1が結合する2種類の受容体の共通した機構が示されたことは細胞生物学的な意義が高い。また、膵がんと食道がんにおいてDKK1-CKAP4経路下流で発現する転写因子FOXM1が直接DKK1の発現を促進するポジティブフィードバック機構が腫瘍増殖を促進し予後不良と関わることが示されたことは、何故がんでDKK1が発現するのかという問いに答えることができた。GREB1経路に関しては、GREB1がSMAD2/3とヒストンアセチル化酵素p300との結合を抑制することにより、TGFβシグナルを抑制し、小児の遺伝子変異を伴わない腫瘍形成機構の存在を示した。さらに、GREB1がホルモン非感受性腫瘍においても重要な役割を果たすことが明らかになり、GREB1の他の腫瘍への影響を探索する切っ掛けとなった。
来年度は最終年度であるので、新規がんシグナル軸に関する臨床的視点での解析を行うことにより、本研究をまとめていきたい。ARL4C経路については、肺がん、大腸がん、肝がん、膵がんでのARL4Cの発現と悪性度との関連が明らかになり、がん種毎に下流シグナルが異なることが明らかになった。さらに、ARL4C高発現のがん種を探索する予定である。また、ARL4C ASOが皮下投与により肺、肝、膵の腫瘍部に到達することが明らかになったので、さらに実用化に向けてASOのデザインを行う。DKK1-CKAP4経路は、本シグナル軸のgain of functionを示すために、マウス尾静脈から高圧でプラスミドを注入し、肝腫瘍を作成する手法を開発した。本法を用いて、DKK1とCKAP4の発現や他のがん遺伝子の発現の組み合わせにより、どのような腫瘍が形成されるかを解析する。また、これまでに、DKK1-CKAP4経路が膵がん、肺がん、食道がんで活性化され悪性化に関与することが明らかになったので、肝がんとの関連を解析する。さらに、ヒト化抗体作製を目指した基礎研究を進める。GREB1がホルモン非感受性の悪性腫瘍である肝がん、神経芽腫、悪性黒色腫で高発現していることがデータベース上で判明したので、これらの腫瘍におけるGREB1発現の臨床的意義とGREB1 ASOの薬効評価を行う。Wnt5a経路に関しては、AOM/DSSモデルにおいて、炎症が消退した後に腫瘍形成が認められる20週までの間のサイトカインやWnt5aの発現様式の経時的変化を明らかにする。20週時での腫瘍周辺の線維芽細胞の1細胞シーケンスを行い、Wnt5a発現細胞の同定と腫瘍形成における微小環境の役割を明らかにする。
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