研究課題/領域番号 |
16H06375
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大隅 良典 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 栄誉教授 (30114416)
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研究分担者 |
堀江 朋子 (川俣朋子) 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (70435527)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | タンパク質 / ATG / 基質 / 細胞内分解 / オートファジー |
研究実績の概要 |
今年度公表した論文数は多くはないが、最終年度に向けて研究課題中核となる論文4報が投稿、または投稿準備の最終段階にある。共同研究に関しても、理研・岩崎、微化研・野田、秋田大・中西氏らとの緊密な連携が進められている。オートファジーにおける膜動態、即ちオートファゴソーム形成の分子機構に関しては、Atg1複合体が相分離によって形成されること、これまで未解明であったAtg2、Atg9の構造と機能が明らかとなった。オートファジーの生理的意義の真の理解には、分解基質と分解産物の解析は必須である。オートファジーにより、何時、何が、どのような機構で分解されているかに注目して、分解過程の系統的な解析を進めている。細胞から液胞、オートファジックボディの単離が可能であるという酵母の特性を生かしてオートファジーによる分解基質を網羅的に解明し、現在までに多くにデータの蓄積に成功した。この中でバルクオートファジーによる細胞質タンパク質の正、負の選択性の存在とその機構の一端が明らかになりつつある。高度に選択的を持つ新規タンパク質の同定に成功した。液胞内 RNase欠損株が、液胞内に蓄積する mRNA, tRNA等の網羅的解析を通じてそのRNA分解の選択性とその機構の理解も進んだ。さらにオートファジーの残された謎の1つであるリソソーム/液胞内における膜分解の分子機構を生化学的、遺伝学的手法を駆使して解明を進めている。タンパク質分解の最終段階である液胞ペプチダーゼの役割を明らかにし、オートファジー分解産物がアミノ酸であることを示すことに成功し、1つのアミノ酸がミトコンドリアのタンパク質合成系の活性を通じて、呼吸増殖の獲得に必須の役割を持つことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中心的課題であるバルクオートファジーによる分解基質に関する知見が飛躍的に蓄積した。重要な突破口はオートファジックボディの単離法と、それに取り込まれたタンパク質の質量分析機による網羅的な解析法の確立である。網羅的な解析の結果、選択的な新規基質が同定され、その機構の解明が進みつつある。またオートファジーの分解を免れるタンパク質に関しても解析が進んだ。 RNA分解に関しては、mRNAの網羅的解析から分解に選択性があること、その機構の一端が明らかになった。液胞内ペプチダーゼの欠損株を用いた解析から、液胞内での遊離アミノ酸の生成が必須であることを証明した。グルコース培養から非発酵性の増殖の切り替えに、オートファジーに生じるセリンが一炭素代謝を通じてミトコンドリアのタンパク質合成能の獲得に重要であることを明らかにした。従来困難であったオートファジックボディ膜の分解機構に関しても解析が進み、その機構が提示できるところに来つつある。いずれも国際的に類のない手法に基づく解析として、オートファジーの分解の理解に大きな貢献ができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1.酵母のオートファジーによる液胞内の細胞質タンパク質の分解に伴い、亜鉛や鉄イオンが液胞から遊離することで、細胞質の実効濃度が制御されており、オー トファジーのイオンホメオスタシスにおける重要性が明らかとなった。2.増殖過程におけるオートファジーの動態を明らかにした。グルコースによってオートファジーが抑制されること、グルコースの枯渇に伴うダイオキシックシフト時にオートファジーが誘導されることを明らかにした。培地を検討し炭素源の状態変 化に対応した各増殖相における多様なオートファジーの誘導を解明した。エタノール増殖細胞は構成的オートファジーを起こすことを示した。3.発酵性炭素源か ら非発酵性炭素源への変換には、オートファジーによって生じるセリンが重要な役割を持つことが分かった。セリンはミトコンドリア内の1炭素代謝系を通じてミ トコンドリア開始tRNAのホルミル基の供与体合成を通じて、ミトコンドリアの翻訳に関わる。分解産物の生理的意義が明らかになった例となった。(投稿準備 中)4.オートファジーに伴って液胞に蓄積する RNAの網羅的解析により、mRNAに選択性があることを示すことに成功。そのメカニズムに迫りつつある。5.液胞内9 種のアミノ、カルボキシペプチダーゼ欠損株を構築する過程で副産物としてペプチダーゼがプロテアーゼの活性化に必要であることを解明、この問題を回避し分 解ペプチドからオートファジー基質の同定する方法が確立しつつある。6.PAS形成の初期過程の理解が飛躍的に進んだ。飢餓による Torの不活性化に伴う Atg13の 脱リン酸化によりAtg1, Atg13, Atg17-Atg29-Atg31からなる5者複合体が形成される。Atg13が2つのAtg17結合部位を持つことで、さらに高次の複合体が形成される。この形成によるAtg1キナーゼの活性化と Atg9小胞の結合が可能となる。
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