コロナ禍の影響で遅れた研究が、順調に進んだが、それらの成果を論文として結実させるには、あと1年が必要である。酵母オートファジーの分解基質、分解産物などの解析を通じてオートファジーの生理的役割が明らかになった。 1.オートファジーによるRNA分解の基質の網羅的な解析を進め、mRNA分解効率がランダムではなく一定の分布を持つことが明らかになった。その選択性が転写効率、リボソームとの結合に依存していることを示すことに成功した。2.オートファジー不能株は最小培地で発酵増殖から呼吸増殖に移行したときに、増殖再開に長時間を要する。この移行期にバルクオートファジーが誘導される。ラグの原因を解析した結果、アミノ酸、とりわけセリンの添加によって解消することが分かった。セリンは1炭素代謝を通じてミトコンドリアの開始メチオニンtRNAのホルミル化に必須な役割を持っており、オートファジーによる分解産物がミトコンドリアの活性に関わる機構の一旦が明らかとなった。3.バルクオートファジーで分解される細胞質タンパク質を単離オートファジックボディの質量分析による解析を進めた。その結果極めて効率よく分解されるYbr28を見出し、逆に分解を免れるタンパク質群にグリコーゲン代謝に関わる酵素を見出し、その機構をあきらにしつつある。4. オートファジーの選択的基質であるApe1複合体が液/液相分離によって形成される液滴であり、その流動性が重要であることを明らかにした。5. 微生物科学研究所の野田展夫氏との共同研究により、長年未解決であった Atg9の構造解析が進み、新しいタイプのスクランブラーゼであることが明らかにした。これによりAtg2、Atg18 などを介した小胞体からオートファゴソームへの脂質輸送の全容が明らかとなった。6. その他、Atg15によるオートファジックボディーの分解機構の詳細が解明されつつある。
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