研究課題
イモリは変態後も四肢再生能力を維持するのに対し、カエルは変態後に四肢再生能力を失いスパイク状の構造しか再生できない。これは再生の第一段階の<先端化>は行われるが、第二段階の<インターカレーション>が遂行されないためと考えられた。すなわちFGFジナルは機能するものの、FGFシグナルとポジティブ・フィードバック・ループを作るためのShhシグナルが機能しないためと考えられた。本研究では、このポジティブ・フィードバック・ループを形成するのにShh遺伝子の四肢特異的エンハンサー配列MFCS1が鍵を握っているとの仮説のもと、カエルのMFCS1をイモリの配列へと置換することで再生能力を惹起することを目標としている。本年度においては、CRISPR/Cas9を持ちいてイモリのMFCS1をカエルのMFCS1に置換するためのイモリMFCS1を完全欠損するモザイク個体の作製に成功した。現在F1個体の作出を目指している。また、カエルのMFCS1をイモリの配列へと置換するためのカエル変異体についても、高効率に変異を引き起こすgRNA配列を3つ同定することに成功した。さらに、昨年度に大きく進展が見られた関節の再生をマウスで惹起するための細胞レベルの解析についても、炎症反応で血小板から出てくるPDGFと、<先端化>によって活性化されるFGFシグナルによって関節残存部の靭帯と腱の組織が反応し、関節再生に参画できる細胞が腱や靭帯から増殖・這い出してくること、残存部から放出されるBMPにそれらの細胞が反応して、関節軟骨の増殖・分化が誘導されることが推察された。関節再生に関して、これらの一連のモルフォゲンの作用と並行してメタロプロテアーゼも重要な因子の一つとして機能していることも判明したが、モルフォゲンとメタロプロテアーゼとの因果関係については、次年度の課題として残った。
2: おおむね順調に進展している
昨年度に作成したCRISPR/Cas9でMFCS1配列に変異を入れたイモリについて、性成熟して、さぁこれからF1個体を取ろうとする段階になって、それらを飼育していた学生のミスで死亡し振り出しに戻る結果となったことが研究の進捗にとって大きな痛手となった。また、昨年度にアフリカツメガエルからネッタイツメガエルへ実験動物のカエルを変更したもののネッタイツメガエルの取り扱いに慣れるまでに時間を要したこと、また研究代表者が基礎生物学研究所の所長に指名されドタバタしたことも想定より実験の進行が遅れた要因となつた。しかし、一方で、再度のトライヤルでイモリのMFCS1を完全欠損するモザイク個体の作製に成功したことで、カエルのMFCS1配列との完全スワッピング個体の作出が進展したことは大きな成果となった。さらに、GFPイモリ、DsRedカエル、GFPニワトリを用いた移植実験系が動くようになったことで培養J-cellの関節再生への参加能をin vivoで解析できるようになったことも大きな前進となった。まだ、クリアな結果は出ていないものの、4年目に向けて大きな成果が得られる状態まで辿り着けた点を鑑み、おおむね順調という自己評価を行なった。
イモリやカエルの関節の再生については、関節部位切断時の炎症反応によってPDGFシグナルが活性化されるとともに、傷上皮形成によって放出されるFGFによって<先端化>が行われ、それらのシグナルに関節残存部の靭帯や腱に眠っている中胚葉系の細胞の増殖と移動が促進され関節の再生が実行されることがほぼ見えてきた。そして、そのような性質の細胞は、ニワトリやマウスの関節の靭帯や腱の中にも眠っていることがほぼ間違いない状況となってきた。今後においては、その事実を標識された細胞を用いたキメラ実験で完全証明することが課題の一つとして挙げられる。また、それらの一連の細胞反応を引き起こすシグナルの解明についても、役者は出そろいつつあるものの、それらの因果関係については未だ不明な点も多く、点と点をつないで線で結ぶ作業が今後の課題となった。再生過程における砂時計モデルを説得力のあるものにするためには、より大きいサイズの腕をもつ有尾両生類での再生実験や、再生芽を透明化して細胞数を数えて動物種を越えて一定の細胞数の時に再生パターンが形成されるのかを明らかにしたい。本研究に残された課題の一つに、ゲノムサイズがヒトの10倍あるイベリアトゲイモリの全ゲノム配列の決定が挙げられる。本年度に全トランスクリプトームに関する論文は出版したものの、今後の再生研究においてゲノム配列の決定と、単一細胞レベルでのトランスクリプトーム解析が挙げられる。再生芽を構成する細胞の単一細胞レベルでのトランスクリプトーム解析については、FACSでの単一細胞を分取してcDNA合成をするトライヤルまでは進んだので、次年度において結果を出せると期待している。ゲノム配列決定については基礎生物学研究所の新規モデル生物センターとの共同研究によって進める予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 2件、 招待講演 10件) 備考 (2件)
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