研究課題
イモリは変態後も四肢再生能力を維持するのに対し、カエルは変態後に四肢再生能力を失いスパイク状の構造しか再生できない。これは再生の第一段階の<先端化>は行われるが、第二段階の<インターカレーション>が遂行されないためと考えられた。すなわちFGFジナルは機能するものの、FGFシグナルとポジティブ・フィードバック・ループを作るためのShhシグナルが機能しないためと考えられた。本研究では、このポジティブ・フィードバック・ループを形成するのにShh遺伝子の四肢特異的エンハンサー配列MFCS1が鍵を握っているとの仮説のもと、カエルのMFCS1をイモリの配列へと置換することで再生能力を惹起することを目標としている。本年度においては、CRISPR/Cas9を用いてイモリのMFCS1の部分欠失系統をいくつも作成し、フィードバック機能に関与する領域の探索を行った。また、昨年度に同定したカエルMFCS1部位の高効率ターゲットgRNAを用いて、イモリのMFCS1の挿入を試みたが、残念ながら年度内にはイモリのMFCS1の挿入系統の確立には至っていない。昨年度までに大きく進展が見られた関節の再生研究について、イモリとニワトリの研究から、<先端化>によって活性化されるFGFシグナルによって関節残存部の靭帯と腱の組織が反応し、関節再生に参画できる細胞が増殖・移動してきて、残存部の関節球部分から放出されるBMPによって関節軟骨の分化が誘導されることが示唆された。今年度において、新生児マウスの関節部にも同様の細胞が存在することを証明することに成功した。すなわち、マウスでも組織培養において関節の再生を担う細胞の存在を証明できたので、来年度では、in vivoにおいてマウスで関節再生を惹起することを行う予定である。
3: やや遅れている
当研究費で雇用していた科研費研究員の松原遼博士が2019年9月30日をもって、鳥取大学・生命科学科の助教(パーマネント)に転出したため、当初計画していた実験計画の変更を余儀なくされた。また、2019年の4月に学習院大学の教授から基礎生物学研究所の所長への異動することになったために、研究室の引っ越しをするとともに、研究室の大幅な改変が強いられこともあり研究の遅れを生じた。
異動先の基礎生物学研究所にオープンラボを設置し、そこに所長研を入れて研究できる体制を構築する。また、学習院大学の卒業研究生2名を研究所の総合研究大学院生として受験してもらい、研究を引き続きできるようにする。また、イモリやカエルを用いたゲノム編集については、学習院大学の研究室の井上助教から基礎生物学研究所の新規モダル生物センターの鈴木賢一特任助教に大学院の指導をバトンタッチしてもらってできるだけタイムラグが無いように研究を推進する予定でする。また、松原研究員の抜けた穴に新規の研究員を雇用してマウスのin vivoでの関節再生惹起ができるよう種々の手術を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
DNA Research
巻: 26 ページ: 217-229
10.1093/dnares/dsz003