研究課題
本研究ではVISUALなどの植物組織・細胞培養系を主として用いて、維管束幹細胞の確立機構と維管束幹細胞からの木部・篩部分化の仕組みを明らかにすることを目指している。本年度は、以下の研究を行なった。1.維管束幹細胞確立機構:維管束幹細胞の確立には2種のbHLH型転写因子である、LHWとT5L1/TMO5がヘテロダイマーとして機能する。そこで、今年度は、オーキシンについて、LHWとT5L1による制御について解析した。その結果、LHW-T5L1ヘテロダイマーは、根端メリステムにおいてオーキシン合成の鍵因子であるYUCCA4 遺伝子の発現を直接誘導し、オーキシン量を増大させることが明らかになった。増加したオーキシンはLHWとT5L1/TMO5の遺伝子発現を促進した。更なる解析から、このオーキシンとLHW-T5L1/TMO5の正のフィードバックが維管束幹細胞の確立・維持に重要であることが明らかとなった。2.篩部細胞分化と木部細胞分化のスイッチ機構1)葉の背腹性と篩部・木部分化の制御:葉の裏側、表側を支配する遺伝子の変異体を用いてVISUALを行い、葉の極性と篩部、木部分化の関係を詳細に検討した。その結果、葉の裏側のアイデンティティーを司るYABBYが篩部・木部分化のパターンに関与することが明らかとなった。2) BES1ファミリーメンバーの機能解析:BES1サブファミリーメンバーの機能解析から、1種類のメンバーが反対の働きをすることで、BES1ファミリー全体としての機能を調整していることが明らかとなった。3)維管束幹細胞からの維管束細胞分化機構:これまでに開発した篩管要素リッチ分化系、伴細胞/篩管要素共存分化系のトランスクリプトーム解析を行い、伴細胞分化に関連する多数の遺伝子の同定に成功した。
2: おおむね順調に進展している
半年遅れたものの、多様なBES1ファミリーメンバーの多重変異体の確立に成功し、これらを用いて、BES1ファミリーメンバーの機能解析に成功した。また、当初の計画にあった、ほぼ全ての研究を行うことができた。その結果として、「6研究実績の概要」に示す結果を得ることができた。さらに、「LHWとT5L1によるオーキシン合成制御」と「維管束分化におけるYABBYの働き」の成果は、ともにPlant and Cell Physiologyに論文として公表することができた。以上、当初計画した全ての研究を実行し、それらを通して新規の知見を得たことから、研究は順調に進展していると判断する。
維管束幹細胞確立機構 維管束幹細胞の確立に働くLHWとTMO5のうち、TMO5についてはそのホモログ の解析が行われ、T5L1はTMO5と同様の機能を持つことを明らかにしてきた。しかし、LHWのホモログについては不明な点が多い。そこで、(1)LHWのホモログについて遺伝学的な解析も含めてその機能を解析し、LHWサブファミリーとTMO5サブファミリーによる、維管束成立制御の全体像を明らかにする。(2)また、維管束幹細胞からの維管束細胞分化機構 維管束幹細胞から維管束細胞分化の過程では、5種類のHD-ZIPIII転写因子が冗長的に関与することが遺伝学的な解析から明らかになっているが、それぞれの因子が独自の機能を持つ可能性も示唆されている。そこで、私たちが開発した培養細胞での転写因子誘導実験系を用いて、これら転写因子の下流遺伝子探索を行い 、転写機能の特徴を明らかにし、これをもとに、維管束初期におけるそれぞれの機能を追跡する。 さらに、(3)本年度の解析からBES1ファミリーの機能の重要性が明らかとなったことから、bes1の復帰変異体の遺伝子同定とその原因遺伝子の維管束分化における役割を解析することで、BES1シグナルの全体像を解析する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Plant and Cell Physiology
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http://www.bs.s.u-tokyo.ac.jp/~seigyo/