研究課題
本研究課題では、まずソース能強化として、Rubisco量を増減させた組換えイネを中心に、他の光合成機能因子を強化した形質を交配導入した多重組換え体を作製。同時にシンク能強化として、秋田63号由来の大粒QTLの高収量性効果の実証を含め準同質遺伝子系統を作出。それらのイネについて文部科学省が定める生物多様性評価試験を行い、第1種使用規定(環境中への拡散を防止するための措置を執らない使用)の認定を取る。直ちに、東北大が所有する隔離ほ場試験に供し、窒素の施肥量を変えて圃場レベルでの収量・バイオマス調査等の実証試験を行う戦略で進めている。研究の遂行は、当初の研究計画調書に従い、7つの課題に分けて進めている。課題1として、電子伝達系増強イネの作製とその評価試験。課題2にとして、Rubisco activase(RCA)増強イネの作製とその評価試験。課題3として、カルビン回路酵素増強イネの作製とその評価試験。課題4として、秋田63号由来のシンク拡大遺伝子の準同質遺伝子系統の作出と多収性の実証実験。課題5として、課題1、2および3で選抜した優良系統とRubisco量を増減組換えイネの交配種作製とその評価試験。課題6として、ソース能拡大イネへのシンク能強化遺伝子の導入を行い、課題7として、優良選抜系統の第一種使用圃場試験を実施。以上、課題1と2は研究代表者の牧野周が担当し、課題3は研究分担者の鈴木雄二が担当、課題4は研究分担者の小原実広が担当し、課題5は牧野と鈴木が担当、課題6は牧野と小原が共同で担当し、課題7は牧野の担当で、全員で行っている。そして、各課題の進行状況に関しては、適時、連携研究者の前忠彦より助言を頂き、遂行している。
2: おおむね順調に進展している
課題1の電子伝達系増強イネの作製として、ヒメツリガゴケ由来のFLVタンパク質の遺伝子をイネの葉緑体で発現させたところ、電子伝達経路の機能が強化に結び付くことがわかった。現在、課題5への展開として、FLV導入-Rubisco過剰生産二重組換体イネの作製を進めている。課題2と3のRubisco activase(RCA)およびカルビン回路酵素増強イネの作製では、RCAの過剰生産体イネの作製に成功したが、過剰生産体イネでの光合成機能の向上は認められなかった。しかし、RCA-Rubiscoの過剰生産二重組換え体の作出に成功し、高温下での光合成向上を確認することができた。カルビン回路酵素TKとSBPaseの増強も試み、それらとRubisco過剰生産の二重組換え体の作製にもそれぞれ成功したが、光合成機能の向上は認められなかった。課題4の秋田63号由来のシンク拡大遺伝子の準同質遺伝子系統の作出を試みた。まずその大粒QTLの決定したところ、既報のGS3であった。Rubisco機能増強イネの親品種である「能登ひかり」に秋田63号由来のGS3をもつ準同質遺伝子系統(BC3F4世代)「大粒能登ひかり」を育成した。現在、課題6として、Rubisco過剰生産イネとの交配を進めている。課題7の優良選抜系統の第一種使用圃場試験では、4か年の試験の結果、窒素施肥が10 gN m-2以上の栽培区で、Rubisco過剰生産イネの乾物生産と玄米収量の最大で28%の増収が実証された。収量構成要素解析をしたところ、登熟歩合の改善が認められた。また、秋田63号由来のGS3をもつ準同質遺伝子系統の収量試験も同時に行い、GS3の増収効果を確認した。限定された条件とはいえ、光合成機能の改善が増収に結びついた結果を世界初の実例として学術雑誌に公表することができ、概ね順調である。
課題1-4は終了し、1-3で得られた結果はすべて学術雑誌に公表済みである。また、課題7でもRubisco過剰生産イネの増収効果についても学術雑誌に公表した。今年度は、昨年度に引き続き課題5-7に関して集中して行う。課題5では、FLV-導入Rubisco過剰生産イネの非破壊着用レベルでの光合成評価を行う。また、FLV-導入-RCA増強-Rubisco過剰生産イネの三重組換体の作出を進め、同様の評価を行う。課題6「大粒能登ひかり」準同質遺伝子系統とRubisco過剰生産イネと交配を進め、生物多様性評価試験に供する。課題7では、「大粒能登ひかり」準同質遺伝子系統の栽培試験も進め、GS3大粒増収効果を実証する。FLV-導入-RCA増強-Rubisco過剰生産イネの三重組換体、および「大粒能登ひかり」+Rubisco過剰生産イネと交配種の生物多様性評価試験を行い、第一種使用承認を得る。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 2件) 備考 (4件)
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