研究課題/領域番号 |
16H06380
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高山 誠司 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (70273836)
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研究分担者 |
和田 七夕子 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (50379541)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 植物 / シグナル伝達 / 蛋白質 / 進化 / 自家不和合性 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究実施計画に掲げた下記3課題について、以下の研究成果を得た。 1)自己および非自己認識機構の蛋白質構造化学的解明:アブラナ科植物における自己認識機構を明らかにするために、花粉因子SP11の結合部位である雌ずい因子SRKの細胞外ドメインをタンパク質エンジニアリングの手法で改変し、昆虫培養細胞により発現・調製する系を確立し報告した。さらに、花粉因子SP11の添加によりホモダイマー化することを確認すると共に、SP11-SRK複合体の共結晶を取得することに成功した。また、ナス科植物における非自己認識機構に関しては、花粉因子SLFとSCF複合体を形成する花粉特異的なSkp1(SSK1)とCul1 (Cul1-P)を花粉管中より単離同定し報告した。 2)自他認識から受精阻害あるいは受精促進に至るまでの分子機構解明:アブラナ科植物については、自家不和合性を付与したシロイヌナズナ種子を変異原処理して得た後代からの遺伝学的探索により、自家不和合性の情報伝達に異常を来したと予測される変異株を複数同定した。また、自家受粉時の雌ずい乳頭細胞内のCa2+濃度上昇に影響を及ぼす因子を複数同定した。また、ナス科植物については、自家および他家受粉時における雌ずい因子S-RNaseの挙動を免疫組織化学的に解析して、受粉後速やかに差異が現れる可能性を見出した。 3)植物自家不和合性の進化過程の解明:ナス科およびバラ科に共通する非自己認識型自家不和合性機構が多くの植物に引き継がれてきた経緯を考察し、論文として発表した。また、異形花型自家不和合性を有する植物より、ゲノム解析に適した種を選抜した。 なお、研究代表者が平成28年10月に東京大学に異動したことに伴い、共に研究を進めてきた奈良先端科学技術大学院大学の和田七夕子助教を研究分担者に加えて双方で研究を分担継続することで研究のさらなる活性化を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物自家不和合性の分子機構と進化について、未解明である重要課題を3つ取り上げ、その解明を目指した。実施計画に掲げた目標はすべて達成し、研究は計画通り順調に進展している。また、実施計画に掲げていなかったが、アブラナ科植物の自家不和合性の花粉因子の優劣性発現機構の詳細が明らかとなり、対立遺伝子間の優劣性が進化する仕組みについて新しいモデルを一流誌に報告することができた。さらに、異形花型自家不和合性の仕組みと密接に関わると推定される雌雄異株植物アスパラガスにおける雌雄決定因子を発見し報告した。本研究で解明を目指す自家不和合性の分子機構と進化に関わる知見が順調に得られてきている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で解明を目指す下記3課題について、以下の点を明らかにしていく必要がある。 1)自己および非自己認識機構の蛋白質構造化学的解明:アブラナ科植物の自己認識機構については、取得したSP11-SRK共結晶のX線構造解析を目指す。そのためには、重原子標識した複合体結晶の作製が鍵を握る。また、ナス科植物の非自己認識機構については、雌ずい因子S-RNaseと花粉因子SLFの異種細胞発現系の構築が課題となる。特にSLFの発現においては、本年度花粉においてSLFと特異的かつ安定な複合体を形成していることを明らかにしたSSK1とCul1-Pとの共発現が解決への鍵を握る可能性がある。 2)自他認識から受精阻害あるいは受精促進に至るまでの分子機構解明:アブラナ科植物については、自家不和合性を付与したシロイヌナズナの自家和合性復帰変異株の原因遺伝子の同定が次の課題である。ナス科植物については、雌ずい因子S-RNaseの挙動を免疫電子顕微鏡法によりさらに詳細に解析し、自家および他家受粉時の挙動の違いを明確化することが次の課題となる。 3)植物自家不和合性の進化過程の解明:コンピューターシミュレーションの手法を取り入れて、S遺伝子座の進化経緯に関するモデルの提唱を目指す。また、異形花型自家不和合性植物については、選抜した植物種においてS遺伝子座のゲノム解析を進める計画である。
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