研究課題
本年度は、自家不和合性の分子機構と進化に関する下記3課題の遂行を計画し、以下の研究成果を得た。1)自己および非自己認識機構の蛋白質構造化学的解明:アブラナ科植物については、昨年度までにSRK-SP11複合体結晶を得ることに成功した。本年度は、位相問題の解決のためにセレノメチオニン(SeMet)標識したSRK細胞外領域の発現系を確立し、これとSP11との複合体結晶の作製と回析データの収集を行い、短波長異常分散法により最終分解能2.6オングストロームで複合体構造を決定した。SRK-SP11複合体は2:2で結合した4量体を形成し、2分子のSP11は各々V字型に配向した2分子のSRKに挟まれる形でその2量体化を促進していることが判明した。ナス科植物については、雌ずい因子S-RNaseを酵母の発現系を用いて調製することに成功した。2)自他認識から受精阻害あるいは受精促進に至るまでの情報伝達系の解明:アブラナ科植物については、自家不和合性を付与したシロイヌナズナの自家和合性復帰突然変異株の内の1株について原因遺伝子を特定した。また、乳頭細胞内のpHをモニターする系を確立し、自家受粉時における細胞内Ca2+流入に先立って、pH変化が誘導されている可能性を見出した。ナス科植物については、免疫組織電子顕微鏡解析により、受粉後6時間の段階で、花粉管先端部におけるS-RNase量に自家受粉と他家受粉で差が認められることを見出した。3)植物自家不和合性の進化過程の解明:自己および非自己認識型自家不和合性において新たなSハプロタイプが進化する過程の独自の分子モデルの妥当性を計算機シミュレーションにより検証した。
2: おおむね順調に進展している
研究実施計画に掲げた3項目については、いずれも計画通り順調に進展している。特に1)のアブラナ科植物における自己認識機構の蛋白質構造化学的解析では、1つのSハプロタイプについてSP11-SRK複合体の構造を解明することに成功し、SP11によるSRK2量体化の誘導機構も分子レベルで示すことができた。また、ナス科植物においては、これまで成功例のなかった雌ずい因子S-RNaseの異種細胞発現系の構築に成功し、非自己認識機構の蛋白質レベルでの解明に向けて大きく前進した。また、2)のアブラナ科植物における自己認識シグナル伝達においては、乳頭細胞内のpHの変化が関与する可能性を明らかにし、新たな重要な手掛かりを得ることができた。また、ナス科の非自己認識機構については、S-RNaseの隔離モデルでは差が見られないとされた受粉後初期の段階でS-RNase量に差がみられることが示され、我々の分解モデルを支持する実験的証拠を得ることに成功した。いずれも重要な成果であり、本研究課題は順調に進展していると判断される。
本研究で解明を目指す下記3課題について、以下の点を明らかにしていく必要がある。1)自己および非自己認識機構の蛋白質構造化学的解明:アブラナ科植物において解明した1つのSハプロタイプ由来の雌ずい因子SRKー花粉因子SP11複合体の蛋白質立体構造をベースにホモロジーモデリングと分子動力学シミュレーションを行い、同一Sハプロタイプ上の両因子のみが特異的に相互作用する仕組み、すなわち自己認識の分子機構を明らかにする。ナス科植物においては、雌ずい因子S-RNaseに引き続き、花粉因子SLFの発現系の構築を目指す。SSK1やCul1-Pとの共発現や、タンパク質エンジニアリングの手法による改変型SLFの発現を検討する。2)自他認識から受精阻害あるいは受精促進に至るまでの分子機構解明:アブラナ科植物においては、自家和合性復帰突然品位株の原因遺伝子の解明を継続すると共に、同定した原因遺伝子の自己シグナル伝達における位置付けを明らかにしていく。また、新たなイオン透過性の関与が示唆されたことから、乳頭細胞で発現する候補因子の関与を逆遺伝学的に解析していく。ナス科植物においては、分解モデルのさらなる検証を進める。3)植物自家不和合性の進化過程の解明:異形花型自家不和合性植物のS遺伝子座のゲノム解析を継続し、自他識別および花の形態形成に関与する遺伝子候補を同定する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Nature Plants
巻: 3 ページ: 17096~17096
10.1038/nplants.2017.96
Plant Reproduction
巻: 31 ページ: 15~19
10.1007/s00497-017-0319-9
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/seiyu/