研究課題
組織傷害に応じて、傷害された組織はそれ自体での修復プログラムを発動する。そして傷害に応じて全身へ傷害を知らせるシグナルも発せられる。そしてこのシグナルに適切に対応する組織間の情報交換を通して修復や再生が行われる。しかしこのような「細胞と全体を結ぶシグナル経路」に関する理解は未だ不十分である。傷害された組織の細胞死は周りに対して積極的に働きかけるシグナルセンターとしての役割をもつ新たな働きが、これまでの遺伝学、生体イメージングによる研究から明らかになってきた。傷害では様々なタイプの細胞死が惹起され、その様式によっても発せられるシグナルは異なる。死細胞からのシグナル生理機能とシグナル因子の分泌機構とを明らかにするために、1.Caspase-1 活性化によるパイロトーシスに伴ったIL-1bの非古典的分泌経路解明、2.アポトーシス細胞からの分泌とその生理機能、3. Caspase が関与しないネクローシスでの因子放出による新規自然免疫活性化機構、について研究を進めている。TNFaで誘導される遺伝子に脱ユビキチン化酵素A20があるが、この遺伝子をマクロファージで欠損したマウスは関節炎を引き起こす。その仕組みとして、RIPK3-MLKL-mediated necroptosisが起こり、その際にインフラマソームの活性化を介したIL-1b分泌が原因となっていることが明らかになった。また、IL-1aの分泌もIL-1bと同様に細胞死に依存したものであることが明らかになった。翅成虫原基再生では、翅成虫原基傷害によって脂肪体でのキヌレニン代謝が動き、遠隔的に再生を促進する代謝産物を作ることが明らかになった。ネクローシス細胞が体内で生じると主要な自然免疫経路のTollが感染非依存的に活性化される。その際のToll活性化経路に関わる新たなセリンプロテアーゼカスカードが明らかになってきた。
2: おおむね順調に進展している
1.Caspase-1 活性化によるパイロトーシスに伴ったIL-1bの非古典的分泌経路解明:GeLC-MS/MS法を用いてパイロトーシス時に切断されるタンパク質を網羅的に探索した。その中でcaspase-1による直接的な切断を受ける基質を複数同定した。個々の基質の遺伝子に対してsiRNAによる遺伝発現抑制によってIL-1b分泌への影響を調べる実験系を確立し分泌に関わる因子の絞り込みを行なった。IL-1bと同じファミリーに即するサイトカインとしてIL-1aがあるが、このサイトカインは直接caspase-1の基質にはなっていないが非古典的な分泌が知られていた。IL-1b分泌の可視化で開発された方法を用いてIL-1aの分泌を1細胞のレベルでイメージング解析した結果、IL-1bと同じように細胞死に伴った分泌をしていることが明らかになった。2.アポトーシス細胞からの分泌とその生理機能:ショウジョウバエ翅成虫原基の組織傷害時のSystemic Damage Response (SDR)発動と再生制御の分子メカニズムの解明を行なった。翅成虫原基の傷害に伴って脂肪体でキヌレニン代謝が変動し、再生を促進する代謝産物が体液に放出されることが明らかになった。3. Caspase が関与しないネクローシスでの因子放出による新規自然免疫活性化機構:ショウジョウバエ翅細胞でネクローシスが起こると自然免疫Toll 経路が感染非依存的におこる。このToll活性化に関わる新たなセリンプロテアーゼの同定を遺伝学的、生化学的に進め、新たなカスケードの存在が示された。
1.Caspase-1 活性化によるパイロトーシスに伴ったIL-1bの非古典的分泌経路解明パイロトーシスに伴って切断を受けるタンパク質の個々の分子機能解析によって非典型的な分泌経路への関与を明らかにする。また、進化的に保存された分子に関してはショウジョウバエを用いた機能解析も進める。2.アポトーシス細胞からの分泌とその生理機能:ショウジョウバエ翅成虫原基再生でのSDRについて、トリプトファン代謝産物による組織間コミュニケーションが明らかになってきた。そこで代謝産物による組織間コミュニケーションを解明するためにGPCRに注目する。これまでにショウジョウバエのGPCRとしてアノテーションされている遺伝子に対して再生阻害を指標にしたRNAiスクリーニングを完了している。その結果、翅成虫原基の修復に寄与するGPCR候補を同定しているため、受容体に対する代謝産物の作用を明らかにする。3.Caspase が関与しないネクローシスでの因子放出による新規自然免疫活性化機構:ネクローシス細胞からはDAMPsが放出されTLRを介する自然免疫の活性化がおこる。ショウジョウバエではネクローシス組織が生体に生じた際に感染非依存的にTollの活性化が惹起されることを見出していたが、このTollの活性化に関わる新たなセリンプロテアーゼカスケードがわかってきた。セリンプロテアーゼのRNAiスクリーニング、ネクローシス状態での体液プロテオミクスを行うことによって候補セリンブロテアーゼを得た。これら候補遺伝子の作用を解析し、ネクローシスによる感染によらないToll経路を活性化する新たなセリンプロテアーゼカスケードを解明していく。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
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