研究課題
免疫応答においては、自己障害を避けるために、過剰な免疫応答を制御する機構が必要である。しかし、リンパ球と異なり、樹状細胞、マクロファージ、好中球、肥満細胞などの自然免疫応答を担う免疫細胞の活性化抑制機構は充分に解明されていない。本研究では、免疫細胞の活性化を負に制御する抑制性免疫受容体による自然免疫応答の制御機構を明らかにすることを目的とした。そのため、これらの免疫受容体のリガンドを同定し、リガンドとの結合の時空間局在を解析する。また、感染、アレルギー、炎症などの疾患モデルマウスを用いて、疾患病態における抑制性免疫受容体の意義を明らかにする。これらの結果をもとに、抑制性免疫受容体を分子標的とした医薬の創出の可能性を探る。平成30年度では、抑制性受容体CD300aの機能の解析を行い、CD300aがマスト細胞の脱顆粒の自己制御機能を有することを明らかにした(JACI, in press)。また、Allergin-1の機能の解析を行い、樹状細胞上に発現するAllergin-1が、Th2応答を抑制し、House Dust Miteによる喘息病態を抑制することを明らかにした。また、アトピー性皮膚炎を自然発症するNc/Ngaマウスの原因遺伝子を同定し、これがマクロファージに発現する新しいC-type レクチン様受容体であることと、そのリガンドを同定した。さらに、ヒトの相同遺伝子を同定し、マウスと同様に機能を有することを確認した。
2: おおむね順調に進展している
1)抑制性受容体CD300aの機能の解明これまで、敗血症、炎症性腸炎、アトピー、喘息などのモデルマウスを用いて、CD300aはマスト細胞や樹状細胞などにおけるIgE受容体、TLRを介するシグナルを抑制し、これらの病態を制御することを示してきた(Nakahashi-Oda, et al. J Exp Med 2014, Nakahashi-Oda, et al. Nat Immunol, 2016)。今回、組織特異的遺伝子欠損マウスを用いて、CD300aはマクロファージによる死細胞貪食を抑制することを新たに明らかにし、アレルギー病態の自己制御機能や種々の炎症病態に重要な役割を担うことを明らかにした。2)抑制性受容体Allergin-1の機能の解明House Dust Miteは、アトピーや喘息を誘導することが知らている主要なアレルゲンである。したがって、House Dust Miteに対する免疫応答を理解することは、アレルギー性疾患の制御において重要である。今回、マスト細胞上に発現するAllergin-1が、House Dust Mite由来のTLR-4リガンドを認識したTLR-4を介するシグナルを抑制し、喘息病態におけるTh2応答を制御することを明らかにした。3)Nc/Ngaマウスの原因遺伝子同定Nc/Ngaマウスはアトピー様皮膚炎を自然発症するマウスであり、RNAシーケンスを用いてその原因遺伝子を同定し、その機能を明らかにした。これは、House Dust Miteの成分を認識し、マクロファージの活性を抑制することを示した。
1)MAIR-Iプロジェクト応募者らは、MAIR-Iがアポトーシス細胞を認識し、マクロファージによる貪食機構に関与することを明らかにした。今後、この分子機構を詳細に明らかにし、アポトーシス細胞の貪食の異常による疾患病態や、アポトーシス細胞の貪食を制御することにより、病態の制御が可能になるかなど、解析していく。2)Allergin-1プロジェクト応募者らは、Allergin-1遺伝子欠損マウスでは、 HDMにより誘導される喘息病態(気道収縮、および血清IgE抗体価の上昇や肺胞浸潤好酸球数の増加などのTh2応答)が増悪することを見出した。これらの結果から、肥満細胞に発現するAllergin-1がHDMにより誘導される気道収縮に関与する一方、樹状細胞に発現するAllergin-1がTh2応答に関与することが示唆された。 本研究では、樹状細胞に発現するAllergin-1のTh2応答への関与の分子機構を、HDMにより刺激した樹状細胞や、樹状細胞特異的Allergin-1遺伝子欠損マウスを作製して明らかにする。3)Nc/Ngaマウスの原因遺伝子同定同定した原因遺伝子がコードする分子のリガンドを同定した。今後、このリガンドがアレルギー病態にどの様な機能を有するかを明らかにする。
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