研究課題/領域番号 |
16H06581
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松山 亮太 北海道大学, 医学研究科, 博士研究員 (00780008)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 感染症疫学 / 数理モデル / ノロウイルス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,感染自然史に関わる基礎的知見が十分に得られていないノロウイルス感染症について、その感染拡大過程を把握するために基本再生産数(R0:感染者1人から感染し,発症する二次感染者の数の平均値),不顕性感染者の生物学的役割,ノロウイルス感染に対する免疫持続期間などの定量化をおこなうことである。2016年度は、①全国規模のサーベイランスデータを利用したノロウイルスの伝播性(transmissibility)の時系列推移の評価,②集団感染事例データを利用したノロウイルスの感染性評価を実施した。①では感染症発生動向調査で公開されている2000年から2016年までのノロウイルス感染症の集団発生事例データについて,推定される感染経路(食品由来,ヒト-ヒト感染または経路不明)ごとの割合データを用い,データの発生過程を考慮に入れた数理モデルを構築してシナリオ分析を実施し,各年度ごとのノロウイルス感染症の伝播性(Ry:年度ごとのR0)を計算した。各シナリオでRyの値は異なったが,どのシナリオにおいてもノロウイルスの伝播性に増加傾向があることと,このRyと同じく増加傾向にあるノロウイルス遺伝子型GIIおよびGII.4の割合に正の相関があることを明らかにした。②では2005年から2006年における55例の食品由来集団感染事例データをもとに,ウイルス排出をが認められる患者の割合と感染リスクから不顕性感染者の割合を推定した。遺伝子型ごとに差はあるものの,平均の不顕性者割合は32.1%(95%信頼区間:27.7-36.7)であった。これらの分析はノロウイルスの遺伝子型構成と集団内での伝播性との関係性の解析に当たり,当初の目標に挙げたウイルス遺伝子型の異質性と不顕性感染割合に関連した解析については一定の成果を上げている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初に予定した研究計画のとおり,ノロウイルス感染症を定義する基本的なパラメータのうち基本再生産数R0および不顕性顕性患者の割合の推定は実施できた。一方で,免疫持続期間の定量化をおこなう上で必要なデータは得られず,計画通りの分析を実施することができなかった。データ収集については逐次進めており,ノロウイルス集団感染事例の解析を実施する下地を整えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は①ノロウイルスの不顕性感染者の生物学的役割のさらなる解明、および②多様な情報を含む数理モデルへのブラッシュアップの2つの課題に集中的に取り組む。①については,総感染者に占める不顕性感染者の割合やその機能(ノロウイルス感染拡大にどれほど貢献するか)の解明をおこなうにあたり十分なデータがないことから,本年度は個体レベルの情報を備えた家庭内感染データを用いて不顕性感染者の割合および顕性感染者と比較した不顕性感染者の相対的な伝播性を推定する方策をとる。本推定問題の実施にあたってはReed-Frost型の確率論的モデルを実装する。②については,2016年度に行った集団発生およびサーベイランスデータ収集の結果,ウイルス遺伝子型の情報を含む疫学データセットは非常に乏しいことが明らかとなった。また2016年度にはノロウイルスの遺伝子型構成の年次変化と集団内での伝播性との関係性を解析し,ウイルス遺伝子型の異質性に関連した解析については一定の成果を上げている。そこで本年度は特にヒト集団の年齢構造を考慮したモデルを発展させることを念頭に,現実性を増した解析へと本研究をブラッシュアップさせることを目指す。具体的には、実施項目1と関連して、家庭内の年齢構成の異質性を加味した疾病伝播モデル開発を計画している。以上の方策とともに,本年度も引き続きサーベイランス情報および集団感染事例データの収集を継続しつつ,前年度に開発したモデルの応用可能性を模索する。項目①および②の双方の研究成果とも,本年度中に取りまとめて出版する予定である。
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